日本での袋綴じ本

勤労感謝の日って、いったい誰が誰の勤労に対してどんな感謝そする日なんだろう……とかなんとか、ちょっと調べればすぐに判りそうなことをウダウダ思いながら、昼過ぎまで惰眠を貪っていた11月23日。
このままじゃイカン、とゴソゴソ起きだして、昼ごはんを食べながらテレビのチャンネルをザッピングしていたんです。

そうしたら、たまたまチャンネルを変えたところが中山秀征司会の「DON!」。
ここで、本の袋綴じについての話題が挙げられていたのですね。
「日本で初めての袋綴じは何でしょう?」との質問に、出演者一同、コンビニでよく見かけるエロ雑誌のことを考えていたようですが、いえいえ。
そこはちゃーんとお昼の番組です。
放送で実物が紹介できるような単行本がえだったのですよ。
アシスタントのお姉さんが「これが日本で初めてと言われる袋綴じ本です」と出してきたのは……ええっ? ウソでしょう?!

なんと、『マイアミ沖殺人事件』だったんですよ!

……ご存知でしょうか、『マイアミ沖殺人事件』。
いわゆる“捜査ファイル・スタイル本”のハシリとなった作品で、内容は5通からなる調書と、「現場で採取された」物証として、電報や手紙、メモ、血痕の付いたカーテンや採取された指紋、髪の毛、マッチの実物が添付されているものです。
で、読者はこれら調書や物証をもとに、犯人を推理する……というものですが、この犯人を述べてある箇所が袋綴じになっているのです。

しかし、『マイアミ沖殺人事件』って、表紙デザインのイメージから考えても、そんな古くはないですよね?
もっと前に出版されたイメージの本だったら、バリンジャーの『歯と爪』があるでしょう(しかも『歯と爪』は、単なるネタバレ防止のためだけじゃなくて、返金保証のためでもあるし)。
そう思ったところで、ああ、そうか。
きっとこのあと、「単行本での初めての袋綴じ本は、この『マイアミ沖殺人事件』ですが、実はもっと古いところでは文庫本で『歯と爪』という作品があるんです」とか言うに違いないのですね!
そういう構成になっているのですよね!

そう思っていたのに、ああ、それなのに……あらら。
袋綴じ本についての話題は、このまま終了してしまいましたよ。

うーん、どうにも納得できない気分なんですよね。
ああ、ぼくが単に思い違いをしていただけなのかしら。
実は、思ったより『マイアミ沖殺人事件』は古いとか。
逆に、思ったより『歯と爪』は新しいとか。

そんな訳で調べてみました。
奥付によると、『マイアミ沖殺人事件』の初版は昭和57年、つまり1982年のことなんですよね。
対する『歯と爪』の初版は、なんと! 昭和52年、つまり1977年なんですよ!
『歯と爪』の方が、『マイアミ沖殺人事件』より5年も先に出版されているんですよ!

どうなっているんだ、こりゃ。

あるいは、番組で紹介したかったのは「単行本としての、日本で初めての袋綴じ本」だったのかもしれません。
ここでフト思い出しましたよ、単行本の袋綴じ。
島田荘司のデビュー作である『占星術殺人事件』も、単行本では後半が袋綴じになっていましたよね。
そこで、念のために調べてみたところ……おい。おい! おーい!!
初版出版年は昭和56年、1981年のことなんですよ!
それって、『マイアミ沖殺人事件』の前年じゃないですか。

ということで、結論。
「DON!」では明らかに誤った情報を、休日の真っ昼間に堂々と流してしまったのでした。
しかし気になるのは、いったいスタッフはどこでどう調べて、「日本で初めての袋綴じ本は『マイアミ沖殺人事件』だ!」として放映してしまったのでしょうか……。

……とまあ、これだけでは単なる文句タレのグチモード全開の不快な日記になってしまいますので、取ってつけたように、その他にも印象的だった袋綴じ本の初版年について調べてみました。

……あれ?
このように書き出してみて、ひとつ気づきましたよ。
これって、ほぼ5年おきぐらいの間隔で出版されていますよね。
ひょっとすると出版業界では、5年間隔ぐらいで袋綴じ本を出したくなるような、そういった雰囲気でもあるのでしょうか……まあ偶然でしょうが。

また、このなかでは飛鳥部勝則『殉教カテリナ車輪』だけが異色な感じがしますが、この作品だけは「なぜ、これを(この部分を)袋綴じにする必要がある?!」という、違う意味での印象に残った本だからだったのでした。

そういう意味から考えると、やっぱり袋綴じ本の最高傑作は「袋綴じであることで成立する」物語を生み出した、泡坂妻夫『生者と死者』で決定ですね!