心霊体験はないけれど

ぼくには「霊感力」というものが一切欠如しているからか、これまでまったく心霊体験というものをしたことがないのですね。
ただ、なぜか妹には色々と経験があるようです。

例えば。
彼女は夜中に金縛りになることがしょっちゅうあり、あるときも「金縛り、きたっ!」と目が覚めたそうです。
動かない身体で目だけそっと開けてみると、目の前に老婆の顔がヌッと迫っていたそうです。
妹の動かない身体の上のちょうど胸のあたりに、見知らぬ老婆が正座していて、そこから身を乗り出すようにして顔を覗き込んでいたのだとか。
ちょうどヤル夫の「はいはい、どーもすみませんでした」的な、こんな感じ?
これが胸の上に正座している感じ
もちろんこんな直立ではなくて、正座をして胸の上に乗っているのですが(それも、見知らぬ老婆が)。

普段からよく金縛りにあっている妹とはいえ、見知らぬ老婆からそんな風に覗き込まれているとなると、あまりに怖くて思わず目をそらしたそうです。
すると、そこに見えたのは部屋の反対側で寝ていたぼくの姿とのこと。
妹は、自分がこんなに怖い思いをしているのに、兄であるぼくは妹を守るどころか、あまりに気持よさそうな顔で寝ているその姿に無性に腹が立ち、「こんな怖い思いをしているのに!」と怒ると、金縛りは解けたのだとか。

翌朝、妹からは「わたしがものすごく怖い思いをしてたのに、お兄ちゃんときたらノンキに寝てた」などと、メチャクチャ怒られたのでした。
なんて霊感力とは理不尽なものなんだ。

そんな体験豊富な妹に比べて、兄であるぼくは一切、そんな経験はないのですね。
……いや、一度だけ不思議な体験をしたことがあるんです。
ただ、それが本当にそういった霊的体験なのか、それとも単なる偶然だったのかはよく判りません。

中学生だったときのこと。
保健体育の授業で、先生の話が雑談に脱線したのです。
そのときに

いいか、おまえらがこうして生きていられるのも、ご先祖様がちゃんと見守ってくれているからだぞ。
だから、ちゃんと感謝の気持ちを示すために、毎日コップに水を一杯汲んで、高いところにお供えしながら「どうもありがとうございます」とお礼をするんだ

というような話をしたのですね。

根が単純なぼくとしては、「ああ、そうなのかー。お供えって言っても簡単なことだし、感謝の気持ちを表してみるかな」と、家に帰ると早速コップに水を入れて、部屋の中で一番高い場所であるタンスの上に置いたのです。
そして「ご先祖様、ご先祖様、どうもありがとうございます」とお礼をしてみたんです。

そうしたら、ですよ。
その日の夜になって、いきなり40℃近い熱が出たんです。
頭が痛いとか、寒気がするといった体調の悪さはまったく感じられなくて、いきなり熱だけがスッコーンと出た、という感じなんです。
当然、次の日は学校を休んでずっと寝こんでいました。
40℃近い熱なので、トイレに行くのもフラフラで真っすぐ歩けないほどだったのですけど、それでもご先祖様へのお供えの水だけは次の日も、その次の日もちゃんと替えて、「ありがとうございます」と、お礼を言うことだけは続けていたんですね。

ところが3日目になると、あまりの高熱によるしんどさからか、それとも単に忘れてしまっていただけなのか、水を替えていなかったんです。
夜になって、その日は水を替えていないことを思い出したぼくは、「ヤバイなー」と思い、オカンに頼んで、水を捨ててもらって、コップも片付けてもらったのですね。

すると。
次の日の朝には、まったく何事もなかったように、熱はすっかり引いていたのです。