桜庭一樹・道尾秀介トークショー(ジュンク堂池袋本店)

金曜日に、ジュンク堂池袋本店で桜庭一樹の新刊『道徳という名の少年』出版記念として「桜庭一樹・道尾秀介トークショー」が開催されるということで、会社帰りにレッツゴウ、行ってきました。
開催が平日なのに、今をときめく作家2人によるトークショーということで、早くから満員御礼、札止めとなっていたこのイベント、会場の4階喫茶室はもうキュウキュウのギュウギュウなのでした。

19時を少し過ぎた頃、拍手に迎えられて2人が登場です。
司会役の方がいるのかと思っていたのですが、きっかけを出す程度でなかに入ることはなく、基本的に2人にトークをまかせた形となっていました。
しかしそんな司会役の方は必要なく、道尾秀介がかなりのサービス精神を発揮。
桜庭一樹にどんどんと質問を投げかけ、また、彼自身も熱い「短篇小説への思い」を語ります。

しかしこの道尾秀介の短篇小説への熱い思いが時折暴走し、桜庭一樹の冷静なまなざしに我に返り(短篇小説の魅力を語っている最中、いきなり「ぼくは辛いものが好きで、ラーメンにはラー油を掛けて食べるのですね」と、なぜかラー油に例えて熱く語り出した道尾秀介の熱い「動」と、それをぽかんと聞いている桜庭一樹の「静」とか……)、そこが会場の笑いを誘うという、終始和やかなムードで進められた1時間でした。

お客さんにはあらかじめ、桜庭一樹と道尾秀介が勧める短篇小説が、国内外で1篇ずつ、計2篇(道尾秀介は選びきれなかったのか、国内作品が2篇の計3篇)、コピーされて配られています。
とはいってもそこは本屋さん、もちろん全部がコピーされる訳はなく、その一部だけなのですが。
そんな短篇小説の紹介をするのって、なかなか難しいですよね。
なにしろ、あらすじを紹介しようとしても、ストーリーをほとんど言いかねませんし。
しかしそこは、お二人の“短篇・愛”が成せるワザなのでしょうか、あるいは引き出しが豊富なだけに紹介したい材料が次々と飛び出してきたからでしょうか、どれもとても魅力的に紹介されたので、メチャクチャ気になってしまいましたよ。

ちなみにお二人の勧める短篇小説は以下のとおりです。

【桜庭一樹】
スティーブン・ミルハウザー「夜の姉妹団」
谷崎潤一郎「刺青」

【道尾秀介】
フレデリック・ブラウン「叫べ、沈黙よ」
中島らも「DECO-CHIN」
阿刀田高「迷路」

今回のトークショーで、特に印象に残った発言は、道尾秀介が言った「短篇集は今、売れないから、出版社ではあまり“短篇集”と言いたがらない」ということ。
そういえば、ここ最近、ぼくが続けて読んだ本のどれもが短篇集だったにも関わらず、帯や表紙のどこにも「短篇集」とは書かれていなかったのですよね。
もともとが短篇として発表された作品のはずなのに、「第1章」「第2章」……と、無理矢理に長篇として構成sきていたので、「これ、なんだかおかしいよなあ」と不自然に思っていたのです。
そうかあ、やはりこれも「“短篇集”と帯やカバーで知らしてしまうと売れない」という出版社の思惑が絡んでいたのでしょう……か。

桜庭一樹の今回の新刊である『道徳という名の少年』も、連作形式の短篇集だそうですが、これも当初から意図していたことではなく、たまたま短篇の依頼が多く重なった時期に「別々の物語で書くよりも、繋がった物語の方が面白いな」と感じたことから書き始めたそうです。
イメージとしてあったのは、デヴィッド・ボウイ『ジギー・スターダスト』のように、1曲ずつは別々でもトータルでは繋がっているコンセプトアルバムを目指したのだとか。

その『道徳という名の少年』については、道尾秀介がスゲースゲーと終始大絶賛。
いわく、他の作家がやろうとしていることをすべて無視している! この5つの短篇だけで、長篇が5作書けるほど中身が濃い! なんてコストパフォーマンスが低い(作家側の視点で)!
この「コストパフォーマンスの低さ」という点については、「長篇と短篇の違い」という点でも繰り返されました。
長篇と短篇とは、実は書く側としては、同じだけのエネルギーを使うのだそうです。
「短く書く」ということは、書く時間が短くて済むのではなく、どんどんと削ぎ落としていく作業が出てくる分、それだけ時間を掛けなければならないのだそうですね。
そのため、短篇を書き続けていると命を縮めているのではないかと思うのだとか。
例えば、川端康成『掌』という本では、120篇もの掌篇小説が収められているのですが、これだけあってハズレがまったくない、あれだけの素晴らしい短篇小説(掌篇小説)を書いてしまうと命を縮めるんじゃないか、と思ってしまったそうなんです。
最近では、Twitterでも小説を書く人が増えているので、こういった140字とさらに短いなかで作品を収めないといけないとなると、この人たちは命を縮めていないのかなーと考えてしまうのだとか。
ここで桜庭一樹、「そういえば、円城塔さんはどうしてTwitterに小説を書いているの?」と不思議そうでした。
(その翌日夜中に、桜庭一樹もついにTwitterを始めました)

あっという間の1時間が過ぎ、トークショーは終了。
引き続きサイン会へと移ります。

ここで、出版社の方々が大慌てであたふたしていました。
どうやら、お土産の冊子が足りなさそうであることが判明したようです。
トークショーの参加者だけでなく、終了後には、書籍を購入した人にもそのままサイン会に参加できるようになっていたのですが、この人数が想定以上の数だったのでしょうか。
「コピー機を貸してください!」「1階のレジの横にありますから、どうぞ」とジュンク堂の方とのやりとりが並んでいる隣で展開。

こちらがそのお土産の冊子、「『道徳という名の少年』プロットノートのコピー」です。
桜庭一樹『道徳という名の少年』プロットノートのコピー(の表紙)
ルーズリーフに様々な言葉の断片や物語の一部が書きつづられているところは、桜庭一樹の頭のなかにある宇宙を彷徨っている星々を眺めているような気持ちになれます。
これ、物語を読んでから見直したら、また違った印象で眺めることができるのでしょうね。

そしてあたふたしている出版社の方は、桜庭一樹がサインをしている周辺でも。
こちらでは、サインを書くマーカーが足りなくなりそうになっているようです。
ジュンク堂の方と、「このあたりで文房具屋さんはありますか」「ロフトかなあ、でもちょっと遠いですね」「近所にコンビニがありますよ」「コンビニにマーカーは置いてますでしょうかねえ」とのやりとりで、こちらでもあたふた。
大急ぎで買いに出られていたようですが、間に合ったのでしょうか……。

で、こちらが金色のマーカーで書いていただいた桜庭一樹のサインです。
おなじみシールは、今回はテントウムシでした。
写真では判りづらいかもしれませんが、これ、羽の部分がふくらんでいる立体シールなんですね。
桜庭一樹『道徳という名の少年』のサイン

この『道徳という名の少年』は、かなり凝ったつくりになっています。
装丁ももちろん素晴らしいのですが、ページのなかも、まるで一昔前の豪華本のようなゴージャスさを感じさせられます。
文庫本になるのを待つのもいいのですが、この雰囲気を味わえるのは、きっとこの単行本だけだと思います。
ぜひとも単行本でも持っておきたい1冊ですね。