第3回 世界バカミス☆アワード(青山ブックセンター本店)

今年も、青山ブックセンターでバカミスの祭典「世界バカミス☆アワード」が行われるということで、昨年に引き続いて参加してきました。
第3回 世界バカミス☆アワード(青山ブックセンター本店)

司会進行は、「バカミスのエバンジェリスト」小山正さん、「バカミスト」川出正樹さん、「『マトリックス』をワイド画面で引き延ばしたような(by 小山さん)」杉江松恋さんの3名に加え、今年は日下三蔵さんも入った4名で行われました。
ここにゲストの倉阪鬼一郎さんと駕籠真太郎さんの2名が加わる訳です。
第3回 世界バカミス☆アワード(青山ブックセンター本店)
そして、さらには次のような豪華メンバーが「特別審査員」として参加していたのでした。

  • 霞流一(「バカミスと言えば、この人」)
  • 新保博久(朝日新聞に「笑えるバカミス」を掲載)
  • 鳥飼否宇(今日のために奄美大島から駆け付けた!)
  • 日暮雅通(鳥飼否宇と共に昨年のゲスト)
  • 宮脇孝雄(第1回のゲストにして、クライブ・バーカー『ミッドナイト・ミートトレイン』の翻訳者)

始まる前に、まずは選考方法についての説明です。
例年はmixiのコミュニティ内だけで候補作の公募がされていたのですが、今年は“開かれた環境”をめざして、Twitterでも公募を行っていました(「やっぱり“世界バカミス☆アワード”だからね」とのことで、オバマ大統領でも投票はウェルカムだったそうです(笑))。
その集計の結果、内外の40作品が「第1次選考」として選ばれ、さらに2次投票の結果、上位12作品が残されました。
その後、小山正・杉江松恋・川出正樹・日下三蔵の各氏により激論が交わされた上で、最終候補作として5作品が選ばれたそうです。
しかし今年はさらにネット投票も実施、選出済みの5作品以外のものが上位に入ったら、それも足すということになり、その結果、ネット投票枠から1作品が選ばれたそうです。
こうして、計6作品が「第3回 世界バカミス☆アワード」の候補作品が決定したのです。

その6作品をプレゼンする前に、まずは惜しくも最終選考から漏れてしまった6作品が駈け足で紹介されました。
いやー、しかしバカミスを紹介してもらうのって、どうしてこんなにワクワクしちゃうのでしょうねえ。
聞きながら、もうニタニタ、ヘラヘラ、気色悪い顔になっちゃって、申し訳ありませんです。

獅子宮敏彦『神国崩壊―探偵府と四つの綺譚』(原書房)
架空の国の歴史を作りあげた4つの短篇からなる作品だが、とにかく3作目となる表題作が素晴らしい。どうしてこのような作品を考え出してしまったのか……。
もちろん他の短篇も素晴らしいのだけど、この作品だったら抱かれてもいい(笑)と思えるぐらいに抜きん出ている。
パブロ・デ サンティス『世界名探偵倶楽部』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
1889年に行われたパリ万博に合わせて世界中の名探偵が集まるが(この時点で清涼院流水を彷彿させる)、事件が発生し、それぞれが活動を始めるのだけど……ミステリとしての「探偵と助手」の関係性に焦点を合わせた物語。
「助手はどうすれば名探偵になれるのか」というあたりがメタになっている。
平山夢明『ダイナー』(ポプラ社)
ハンバーガー小説(笑)。
殺人鬼が集う「殺人レストラン」でウェイトレスとして働くことになった女性の、純愛と成長の物語……で、とにかくお腹が減る。しかしそこは平山夢明、もちろんビチビチグチャグチャな描写もあるので、死体を見ながらご飯を食べるような……。
特筆すべきは、レストランに集う殺人鬼たちが皆、変な特技や性格、肉体改造をしているところ。
これはもう「山田風太郎忍法帖」だ。
詠坂雄二『電気人間の虜』(光文社)
とても紹介に困る作品であり、読者によってラストは賛否両論分かれそうな大変な問題児。
どれほど困った作品かというと、以前に綾辻行人が「作中にぼくの名前が出てくるんですよね」と困ったような顔をするほどの困った本(会場内爆笑)。
カール・ハイアセン『迷惑なんだけど?』(文春文庫)
重すぎる母親の愛に困る男の子の物語。
この母親は正義感が強いあまり、男の子が目を離すとすぐに、ルールを守らない人に「お仕置き」を仕掛けるというもの。
エリック・ガルシア『レポメン』(新潮文庫)
近未来、臓器移植の申し込みがスーパーマーケットでも気軽に行われるようになっている世界。
しかし、臓器移植のローンが支払えなくなると、移植された臓器を取り返されてしまうというルールになっている(今だったら借金を返せないと「臓器売ってでも」と言われるけど、それが問答無用で行われる)。
かつて、その取り立て屋だった男が主人公の物語。
臓器を取り立てるということで、ビチビチグチャグチャな描写はあるけれど、ホロリとさせられる。

惜しかった作品は以上の6作品でした。
そして、ここからいよいよ最終候補作の紹介に入ります。

ドゥエイン・スウィアジンスキー『解雇手当』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
前回も『メアリー・ケイト』でエントリーしたこの作者が再びのノミネート。
休日の朝一番に、社員を会社に呼び出した社長が「君たち全員を殺す」と宣言、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄となる……という“なんじゃそりゃ”な物語。
全員協力し合って脱出すればよさそうなものなのに、誰もそうしないし(笑)。
あらすじ紹介には、ハイパー版『そして誰もいなくなった』 とあるが、どちらかというと『バトルロワイヤル』でしょう、それもいい大人たちの(笑)。
日暮雅通「ラストが言えないのがつらいなー」
ちなみにこの作者、こうしたバカミス以外にもビジネス書が出版されている。
それが、ソフトバンククリエイティブから出版された『ヌスムビジネス』というもので、内容は“産業スパイになる方法”。
と言っても、「高層ビルからどのように脱出するか」などと、日本では絶対に役立たないが(笑)。
ジョシュ・バゼル『死神を葬れ』(新潮文庫)
かつてマフィアの殺し屋だった研修医が主人公。
メディカルミステリというよりも、ぶっとんだキャラクタ造形が楽しい。
ギャグ満載の現在のエピソードと、シリアスな殺し屋時代のエピソードの対比が素晴らしい。
しかし本当に何気ないところで、ミステリとしても大きな伏線が張られていたりするので、ギャグやオフビートに目を奪われていると、「おおっ!」と驚かされること必至。
杉江松恋「註釈小説としても読める作品で、各章に『アメリカの製薬会社の営業は色仕掛けで医師を篭絡しようとするのがあたりまえ』のような豆知識が書いてある。全体的に能天気で、同じ医師作家でも日本の医療ビジネスについて悲観的なことしか書かない海堂尊とはだいぶ異なっている」
飴村行『粘膜蜥蜴』(角川ホラー文庫)
戦前の日本のイヤな時代の物語。唯一史実と異なるのは、トカゲ人間が存在していると言うこと。
東南アジアのトカゲ人間の国を日本が征服したため、彼らは日本に連れてこられ、下男や労働力として働かされている。
もともとトカゲ人間は、人間の脳を食べるものだが、有力者の息子の自宅で働く下男のトカゲ人間“富蔵”は日本生まれの日本育ちのため、ご飯と味噌汁しか食べず、その上軍国少年で将来は日本の兵隊さんになるのが夢という……。
こうした第1部が突然に第2部になるとまったく趣向の変わった「南方秘境小説」となり、第3部でそれまでのエピソードが融合することで、大きな愛が産まれるという物語。
小山正「第2部なんて小栗虫太郎の冒険小説を彷彿させて、ワクワクさせられた」
駕籠真太郎「当たり前のようにトカゲが登場して、誰も疑問に思わないところが“昔話”のような感覚。だからか、残酷描写もおとぎ話のよう」
マット・ラフ『バッド・モンキーズ』(文藝春秋)
杉江松恋「全米が泣いた……俺のなかでは」
精神科医に尋問を受ける少女と、バッド・モンキー(悪しき者)を葬る活動に勤しむ少女のストーリーが交互に語られる。
ブルーワーカーとして社会の底辺で誰にも信じてもらえずに生きなければならない、それでも自らの信念を貫く人間というハードな側面と、バッド・モンキー(悪しき者)を葬る武器が「オレンジ色の光線銃」というおバカさの対比に、「オースティン・パワーズ」のような、“バカが世界を救う”小説を見た思いがする。
駕籠真太郎『フラクション』(コアマガジン)
連続輪切り魔が登場するエピソードに、作者自身が登場してミステリ論を語るエピソードが交互に組み合わされる。
この作者のエピソードが、「作者」対「読者」という特殊な構造となる。
通常、ミステリでは一般的には「探偵」対「犯人」だが、それを「作者」対「読者」の次元まで引き上げているところが素晴らしい。
あとは絵のインパクトとトリックに、読了したら1日はボーッとしてしまう。
読書会では語り合える楽しさもあるから、友情をはぐくめる作品でもある。
霞流一は、同書内での「特別対談」のときは、製作上の関係で、まだ『フラクション』を読んでいなかった。
後日、献本として送られてきた同書を初めて読み、「先に読んでいたら自信喪失して対談は引き受けなかった」とか。
20世紀のバカミスの聖典がカーの『魔女の笑う夜』だとすれば、『フラクション』は21世紀の聖典であってもおかしくはない程の作品。
倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』(講談社ノベルス)
日下三蔵「……どこまで言ってもいいのかなー(困)」
全部で190ページあるうちの80ページが解決篇と、異常なほどに解決パートの比率が高いのも特徴。
倉阪鬼一郎「この本は文庫にはできないでしょうねー」
これだけのものを書く労力を考えると、1冊分の収入では合わないのではないだろうか。しかも文庫化もできないとなると、さらに合わない……。
鳥飼否宇「これだけのものだと、校正も大変だったのでは?」
倉阪鬼一郎「講談社ノベルスでの字送りのルールがあるのを知らずにいたため、初校は真っ赤になってしまったが、そこを指示することで再校ではピタッとおさまった」

ここで最終投票に入ります。
特別審査員と観客には、あらかじめ投票用紙が渡されてあり、最終候補作6作品のなかから「この本を読みたい」と思ったものを選びます。

集計結果を待つ間に、ゲストへのインタビューとなりました。

【倉阪鬼一郎】
初めて「バカミス」を意識して書いたのは『四神金赤館銀青館不可能殺人』。
確かに、それまでの作品でもネタとしてバカミス的なものもあったが、“アッパー系”ではないから……(会場内爆笑)。

ピーター・ディキンスンの『盃の中のトカゲ』を読んで、伏線さえ張っていれば、何をしてもいいんだ、読者は許してくれるんだなと学習した(笑)。
本格ミステリと言うよりも、だまし絵が好きだ。
ひとつひとつは魚や野菜なのに、全体で見ると人間だったというようなもの。
このような、どうでもいいと思われそうな細かいことを丁寧に描いていって、最終的には全然異なるものを描くものが好き。

『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』を書くのは、確かに最初は大変だったが、根を詰めれば仕掛けは描けるもの。
昔、出版社の校正を朝から晩までやっていたときに比べると、この作業は格段に楽しい。
根さえ詰めれば仕掛けはできるけど、その仕掛けを必要とする理由付けの方が難しい。
『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』も、最初からここまではしていなかった。
『四神金赤館銀青館不可能殺人』と比べるとちょっと弱いかなとドンドンと足していっていたら、ここまでになってしまった。

もともと幻想小説などは読んでいたが、ミステリを読むようになったのは30を過ぎてから。
岡嶋二人が引退した頃で、「席が空いているに違いない」と友人と合作して乱歩賞に応募しようということになり、色々と勧められたもの読むようになった。
ちなみにその友人は、今は作家ではなく、カタギの仕事をしている。

【駕籠真太郎】
もともとミステリは好きだったが、ここまで1冊まるまるミステリの作品というものは初めて。
ただし、好きといっても、正統派の本格ミステリよりも、バカミスや叙述モノなど変則的なジャンルのものがいい。

今回は、もともと1冊出版することになっていて書き下ろしで出したかった。 内容も、せっかくだから自分の好きな変則的なミステリで行こうということで、このような作品になった。 マンガでミステリといえば、金田一少年やコナンなど、キャラクタものが主流だが、自分はそういったキャラクタが苦手なので、「キャラクタに頼らないミステリ」を描こうと思った。

マンガを描くだけでなく、様々なグッズなども作成している。 (ご本人のホームページでも販売中)

  • 「バラバラ死体」のガチャポン
    手とか、足とか、バラバラに切断された人体のパーツだけが入っている
  • 泳ぐ水死体
    水死体の人形の腹に水中モーターが取り付けてあるもの
  • ジオラマ
    ゴミ袋に死体を入れて収集所に出しておいたらカラスに漁られてゴミ袋が破け、なかの死体が出てきている様子のジオラマ

ちなみに「バラバラ死体」のガチャポンが置いてある場所は、おそらく「バラバラ死体 ガチャポン」で検索すると見つかるでしょう……とのこと。

そしていよいよ投票の集計ができたようです。
栄えあるアワード受賞作が小山正さんにより発表されました。

第3回 世界バカミス☆アワード 受賞作
倉阪鬼一郎『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』(23票)
駕籠真太郎『フラクション』(21票)

今回は非常に僅差ということで、同時受賞となりました!
おめでとうございます!
記念品は、ポスターの図柄がアクリル板でとじられた盾(のようなもの)です。 第3回 世界バカミス☆アワードの盾(のようなもの)

他の作品への投票数は以下のとおりです。
ドゥエイン・スウィアジンスキー『解雇手当』(5票)
ジョシュ・バゼル『死神を葬れ』(4票)
飴村行『粘膜蜥蜴』(5票)
マット・ラフ『バッド・モンキーズ』(6票)

その後は、えへへへ、いよいよサイン会なんですよ。
こちらが駕籠真太郎サイン入り『フラクション』です。
駕籠真太郎サイン入り『フラクション』
ご本人は作中に登場するとおりの方なのですが、素敵な方です。決して……(おっと、ネタバレ寸止めだ)。

続いては倉阪鬼一郎サイン入り『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』です。
倉阪鬼一郎サイン入り『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』
サインを書きながら、「あれ? 以前にもサインしたことありませんでしたっけ」……って、それ、もう10年以上も前になるMYSCONのときですっ!
うひゃー、覚えていてもらっていて、なんとまあ、大感激です。
感激の余りに調子に乗ってしまい、疑問に思っていたことを訊いてみました。

『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』のなかで、「ある作品では、参考文献がミスディレクションになっている」と書かれていましたが、どの作品ですか?
(ちなみに「著者の言葉」と「著者近影」がミスディレクションになっているのは……同書ですよね?)

「そんなこと、教えられません! 自分で探してください!」と、けんもほろろに断られたらどうしよう……とドキドキしながら訊いていたチキン野郎なのですが、いえいえ。
にこやかに「ああ、あれは『無言劇』なんですよ」と教えていただけたのでした。
「誰も気付いてもらえなくてですねー」と、これまた作中人物と同じことをおっしゃられていたので、なんだかメタな気分に。
しかし『無言劇』とはまた意外な作品でした。家に帰って早速確認しようと思ったのですが……ひぇー、本がどこにあるのか判らない……。
すみません、改めて探しておきますです。