新たな方向を提示した高襟「浮気姉妹」(Dance Studio UNO)

土曜日のこと。
朝9時に寝たものだから、フト目が覚めたのはもう夕方なんです。でも、窓の外はもう真っ暗なんですよ!
「ウワ、何これ! もう夜になってる!」とベランダに出てみたら、おお。
空に一面、黒い雲がムクムク掛かっていたのであたりは真っ暗だったのですが、西の空だけ雲が途切れていて、そこから夕焼けが覗いていたのでした。
残照の向こうに、富士山。
残照の向こうに、富士山

そんな訳で、なんとも言えない夕陽を見て、なんとも言えない気持ちのまま、クルマに乗って押上へゴウ!
いつもお世話になります高襟の第5回公演「浮気姉妹」なんですよ。
高襟公演の歴史

この「浮気姉妹」って、漢字では“浮気心ある姉妹たちの物語”と読めるのですが、言葉だけだと「浮気しまい(=浮気はしないぞ)」となるのですよね。
読み方によって正反対の意味となってしまう、かなりトリッキーなタイトルなのです。
このタイトルのように、今回の作品そのものも、見方によってはかなり印象が変わってしまうという、かなり実験的なものでした。

これまで、高襟の公演でスタジオを使用するときは、より「劇場らしさ」を目指すために、レッスンで使用する大きな鏡や窓を一切、敢えて隠してきたそうなのです。
ところが今回は、こうした窓や大きな鏡を隠すどころか、積極的に舞台装置として使っているのですね。
そして、ぼくが座った位置(最前列の下手側)がたまたまベストポイントだったため、「ステージ」「鏡に映ったステージ」がきれいに二分して見え、世界が2つあるような、そんな錯覚さえ覚えさせられていたのでした。
「世界が分かれている」と言えば、ステージの隅に置かれてある小さなテレビも非常に面白い効果をあげていたのでした。
窓と大きな鏡が印象的に使用されたのでした

このテレビは開演前からずっと階上にある控室(主宰者の自宅)の様子が映し出されているのですね。
会場と同時に、ステージ進行とはまったく関係なく、キッチンで肉料理をつくっている様子がずっと映し出されているのです。
「テレビ」という箱のなかで「別次元のストーリー」が流れている構図は、このテレビ内でも行われていて、「控室のリビングに置かれてあるテレビのなか」では、キッチンで肉料理をしているところとまったく関係なく、「食肉解体工場での様子」が延々と流されているのです。
つまり今回のステージは、

「観客」
  ↓
「ステージ(パフォーマンス)」

「ステージ(テレビ)」
  ↓
「控室(肉料理)」

「控室(テレビ)」
  ↓
「食肉工場(食肉解体)」

という、大きな入れ子構造をなしているスタイルだったのですね。

前半のラストで肉料理が完成すると、出演者は控室、つまり観客から見ると「ステージに置かれたテレビの向こう」へと戻っていきます。
そして始まった後半。
ただし出演者はステージに戻らず、ずっとテレビのなかで暴れているだけの映像が続きます。
ただし、暴れている音だけは階上から響いてくるので、先ほどの肉料理のときと異なって「まったくの別次元」という感じではなく、どちらかというともっと近い、「パラレルワールド」的な感覚を味わうことになるのです。

やがて、出演者たちは会場に戻り客席内を含め、自由にかけずり回り出します。
その後ろにはカメラも着いてきており、ここで観客たちもテレビ内に登場するのです。
つまり、これまで別々に進行していた「ステージ」と「テレビ内」の世界が、ここでひとつになったのですね。

そうなんですよ! これ、これ! ここ、ここ!
この「世界がひとつになった」ところで、サブイボがブワーと吹き出してしまったぐらい、感動してしまったのですよ。
村上春樹の、あの小説での世界観。
あの有名な新本格ミステリ作品での、「そっち」が実は「こっち」と同じ世界だったことが明かされたときのカタルシス。
そういったものが現実としてぼくの上に落ちてくるんですから。
いやー、もう、マイッタ。ヤラレタ。ゴメンナサイ。

ただひとつ、欲を言わせてもらえば、さらに別の世界だった「鏡の世界」も、このひとつの世界に加えてほしかったかも。
そうしたら驚きは3倍(単純比)になったのではないかと思うのですね。

もちろん今回の作品で驚異的だったのはこの構成だけではありません。
あみだくじによって、ソロパートを入れ替えるという趣向がよいされているのですが、これ、頭で考えるほど簡単なものでは、当然違いますよね。
それぞれ格好も性格も異なる3人の登場人物(マダム、ストリート系、お人形のようなお嬢様)になりきって(しかもどれに当たるかは判らない)、ソロシーンがリピートされるところは、観ている方としてもかなりのスリルとサスペンスで、ドキドキさせられっぱなしなのでした。
あみだくじもどこか「もう決まっているんじゃないの」と思ってしまったため、ここをもっと「偶然性」を強調できるものであったら、なおさらドキドキできたのではないかと。

今回の作品は、主宰者の深見さんいわく、「これまでの“女子のエロス”」から一歩離れて、新しいスタイルを試みたとのことです。
ははあ、それで「食」なのか! と納得。
確かに“エロス”というテーマは、前々回の「高襟狂想曲」から前回の「milk」にかけて、ひとつの頂点を極めたように思うのですね。
もちろん、このままさらなる高みを目指すのもありですが、別方面からのテーマの模索とアプローチを経ることで、今後は複層のテーマを重ね合わせるという技を繰り出すこともできると思うのですね。
(もともと、「食」はこれまでの作品にも、ガジェットとして登場してきていましたが)
そんな訳で、高襟における今回の「浮気姉妹」という作品の位置づけは、今後の作品展開の中でもかなり重要な位置を占めるのではないかと思うのですね。

いやー、それだけに今回の作品で面白かったポイント、「ひとつに収束する世界」や「登場人物の入れ替わり」をうまく説明できないのがもどかしんです。
ぜひ、皆さん、その目で確かめて、サブイボが出てくることを共に体感しましょうよ!……と言いたいところですが、今日、15日が最終日なのでした。
(だからここまでネタバレ書けるんだし)

公演終了後は、なぜかぼくまで一緒になって打ち上げに参加してしまいましたよ。と言っても、クルマなのでお茶で乾杯。
しかし、ホントによかったのでしょうか、関係者みたいな顔して座ってるけど……。
すると、「いいの、いいの、中橋さんはVIPですから」。
VIPって、それ……「Very Iyarashi Person(とってもイヤラシイ人)」ってことじゃ……キャー!

でも、いいんです。VIPでも、BIPでも。PIPでも。
関係者の振りをして裏話も色々と訊かせてもらって、「え、それってどうなの?」「ホンマに? ホンマに?」「そらアカンわー」とまるで、大阪のオバチャンが紛れている状態。
まあ、「女子の園」なんですから、オッサンではなくてオバチャンだったらOKでしょう。オホホホホ。 そんなこんなでもう気付いたら、22時! わー!
公演時間よりも長い時間お邪魔してしまっていて、やあーねえーオバチャン、もう失礼させてもらいますわ……オホホホ。
今回の公演会場であり、高襟のホームである「Studio Uno」

ちなみに。
今後の高襟公演の予定は、残念ながら新型インフルエンザ等の影響も考えて、まだ先になるそうです。
刮目して待とう!(←これ、使い方あってる?)