日経新聞の読書欄で壮絶なネタバレ紹介

【ご注意】
今日の日記は、小泉喜美子『弁護側の証人』の趣向をばらしてしまっています。
未読の方は原作の超絶的な面白さを損なってしまう畏れがありますので、ご注意ください。
(特に写真の新聞記事は、壮絶なネタバレをしているので決して見ないでください)


いつも会社でお昼ご飯をもぐもぐ食べながら、その日の新聞を読むのが日課なんです。
が、今日は新聞休刊日。
ああ、そうなのか、仕方ないね、と日曜日の新聞を読んでいたのでした。
すると、真ん中あたりのページにある読書欄。
片隅に囲み記事があり、大きく

市民権得た「叙述トリック」

なる文字が躍っているんです。
日曜日の読書欄に掲載された日経新聞の記事

実はぼく、ミステリ好きを広言しておきながら、アリバイトリック(なかでも時刻表トリック)や密室トリックが苦手なんですね。
何しろ文字であーだこーだと説明されていても、まったくその情景が思い浮かんでこないんです。
そんなミステリの屋台骨となるトリックが苦手で、「いったい何を読んでるの?」と自分でもビックリしてしまっているほどなのですが、叙述トリックだけはもう大好きな大好物なんですね。
あまりの大好物ぶりに、叙述トリックだけでご飯はどんぶりに5杯はいけるほどなんですよ!(← 無理です)

この記事はきっと「叙述トリックとはなんぞや」といった、ミステリ初心者向けの解説なのかな、と読み始めたところで……ぬおおおーっ!
なんと、これ、小泉喜美子『弁護側の証人』を紹介している記事だったのですよ。
冒頭からいきなり

本書は、著者が読者に対して仕掛ける「叙述トリック」を駆使した先駆的な作品。

って、ネタバレ・レッドゾーンを軽く振り切っちゃうほどの紹介をしちゃってますよ。
しかも、これ、やはりミステリ初心者に向けた紹介記事だからか、わざわざ

本作に仕掛けられた叙述トリックという技法は、例えば「若い男だと思われた人物が実は老女だった」というようなどんでん返しの技。

などと、懇切丁寧にネタの解説をしてしまっています……が、これはダメでしょう。
だって、この本のあらすじ紹介では「驚くべきどんでん返しがあなたを待っている!」的な惹句が謳われているのですよ(すみません、復刊本が手元にないので、正確な言葉を覚えてないんです。そんなニュアンスだったということで)。
すると読者としては、もうすでにこの時点で「驚くべきどんでん返し」=「誰か作中の人物が入れ替わっている」と、自然にネタバレの方向で考えてしまうと思うのですね。

そして、この記事で最大のダメダメっぷりを発揮したのが締め。
この記者は自分の言葉だけでは説得力がないと思ったのか、虎の威を借りようとして、いきなり道尾秀介の解説文を引用しているのですよ。
しかしその引用方法が最低最悪なんです。
もうここまで来ると、この記者はどんなスットコドッコイなんだ、と……。

そもそも、道尾秀介は解説文で極力読者に予備知識を与えないよう、また少しでもネタを連想させてしまわないよう、かなり苦心して書いているところが伺えるほどなんですよね。
肝心のネタをぼかしながらも、的確な例えで、判る人には「なるほど!」、判らない人には「どういうことだろう、とても気になるよ!」となる名解説だと思うのですね。
それをこのスットコドッコイ記者は

解説の最後を、道尾はこう締めくくっている。「驚きや感動とともに教えられた『下絵の技』を、少しでも引き継いでいければ、といつも願っている」。道尾が「下絵の技」と例えた叙述トリック。

何ですか、その格好付けた体言止めは。
いや、別に格好付けて体言止めでもいいんですが、それ以前に、せっかくの道尾秀介の配慮をメチャクチャ踏みにじっているではないですか。
わざわざ道尾秀介が「下絵の技」とぼかして書いているのに、どうしてそんなに堂々とバラしちゃうのかなー。
もうね、いったいこのスットコドッコイは何を考えているのかと。

しかも、このスットコドッコイは道尾秀介の解説文のなかの「下絵の技」という言葉だけを抜き出しているものだから、まるで「叙述トリック」が物語の土台(下絵)となっていて、その上にはさらに大きなトリックが描かれているような、そんな構造さえ想像しちゃうのですよね。
いや、これは全然違うのですよ。

自分の文章のなかだけでネタバレしちゃって「やっちゃったぜ、ゴメンね」というのならまだしも(それもいけませんが)、ネタバレどころか、まったく関係ない道尾秀介の配慮をも踏みにじっているわ、いい加減な引用をしてまったく違った意味に捕らえかねないことをしてるわ……と、もう散々なんですよね、この紹介記事は。

これまでにも、ネタバレ解説や紹介記事で散々「こらぁぁぁーっ!」と怒りを感じたことも多々ありますが、ここまで酷すぎて怒りよりも先に呆れてしまった記事は、初めて見たかもしれません。
日本経済新聞、略して日経新聞、恐るべし。

「怒りよりも先に呆れてしまった」といいながらも、気が付くと、かなりエキサイトしてしまいました。
お見苦しい点があったことを、深くお詫び申し上げます。
誠に申し訳ございません……。