第八十五回「東をどり」(新橋演舞場)

普段はなかなか日本舞踊なんて観る機会がないのですが、以前に一度だけ、会社のレクレーションで向島の料亭で芸者遊びに興じたときに、スモール日舞ワールドを垣間見たことがあったのでした。
料亭のお座敷という、そのスモールワールドでさえ、日舞の美しさにノックアウトされてしまったのですね。

で、今日は縁あって、華の都はトーキョーの芸者さんたちが集う「東をどり」を観ることになったのです。
やったね!
そんな訳で、いそいそと新橋演舞場までやって来ましたよ。
ちなみにこの東をどり、年に1回の公演なのですが、今回でもう第85回を数えるそうなんです。
新橋演舞場の入口

演舞場に一歩足を踏み入れると、ロビーはもう人・人・人の渦。
その渦をなしている人々は、明らかにぼくとはお召し物が違うどこかのシャチョーさん、着物をビシッと着こなした若ダンナ、その女将さん……などといった風情の方ばかりなんです。
嗚呼、いつも行く小劇場とはまったくもって別次元の客層なんですよ。
そのような方々に混じってつまみ出されやしないかと、ステージ全体を見渡せる席に座りワクワクドキドキ。
新橋演舞場の入口

……などと、心配していたのもつかの間、つまみ出されることなく、無事に公演が始まりましたよ。
いやー、やっぱり美しいのですよねえ。
なんというか、様式美。
海外のダンス系はどちらかというと「表現すること」で美を現しているような感じがするのですが、日舞の場合は「様式を守ること」で美を表現しているような、そんな気がするのです。
きっと稽古では、キビシイお師匠さん(おっしょさん)から、扇子の動かし方やらその角度、また歩き方や動きを止めたときの指先の形に至るまで、「そんなん違いますえ」(←なぜに京都弁?)「なんべん言わせたら気が済みますんや?」(←だから新橋は京都弁ではありません)と激しく指導されていることなのでしょうね。
その厳しい指導の行き着いた先に、この「様式美」というスタイルがあるような、そんな気がするんです。

しかしながら、では、日舞はその「様式」にギッシギシにとらわれてしまっているのかというと、そうではないのですね。
個々の動きを見ていると、それはそれはメチャクチャかわいいのですよ。かわいい。キュート。
全体的には「様式美」を取り入れながらも、その個々の動きでは、芸者さん自身が持っているキャラクタを現しているような、そういったところを観るのも、またひとつのお楽しみなのでしょう。

「観るのを楽しむ」といえば、お客さんもなかなかのプロフェッショナル。
なかでもひとり、絶妙なタイミングで出演者ひとりひとりの名前をきちんと叫ぶオジサンがいたんです。
そのオジサンが掛け声をタイミングよく全員の分を掛けることで、また舞台がより一層華やかに盛り上がっていたんですよね。
オーケストラのブラボー屋より、断然カッコイイんですよ、そのオジサン。
プロの域に達しているといってもいいほどのカッコよさ。
最後に「フィナーレ」で全芸者が勢揃いしたときなんて、「いよ、新橋ぃー!」
そのあまりの心憎いまでのカッコよさに、もう涙が出そうになりましたよ。

で、これだけ楽しませてもらって2000円なんですから、これはもう、来年もぜひとも行きたいものです。
というか、日舞の公演ももっともっと観たいものですねえ。

ところで。
そんなこんなで公演がメチャクチャよかった今日の新橋演舞場ですが、ロビーで売られていた「小倉最中アイス」も忘れてはなりません。
新橋演舞場での絶品「小倉最中アイス」
このアイスがもうあまりの絶品ぶりで、一口食べただけで言葉を失ってしまうほどの感動ものだったんですよ。
そもそも、もなかアイスなんて森永の「モナカアイス」しか食べたことがないのですよ。
そんなぼくがいきなりこの「小倉最中アイス」なんて食べてしまったものですから、人生観が一変してしまったと行ってもよいぐらいの衝撃ですよ。
ぼくが生きてきたなかで、もっとも価値あるアイスクリームの座をいきなり勝ち取ってしまったといってもよいでしょう。
ああ、このアイスを食べるためだけでも、また新橋演舞場に行ってもいいぜ(←言っていることがおかしい)。
第八十五回「東をどり」(新橋演舞場)