ミステリファンのための名曲集

ミステリなんですよ、ミステリ。歌の世界でのミステリ。

“歌の世界でのミステリ”と言えば、以前にも紹介したカナダのバンド、Nickelbackの「Someday」のPVがミステリマニアの間では有名ですよね。
このPVは驚愕のエンディングを迎えることで、それまでPV内のあちこちで巧妙に提示されていた伏線の数々がキレイに回収されていくのです。
「すべての手がかりはあらかじめ提示されていなければならない」といった、ミステリの形式美に則った作品なんです。

このNickelbackというバンドには、他にも名作PVが多くあり、そのなかでも「Savin' me」という曲では、これまた、ミステリとしての形式美に則った作品に仕上がっています。
どうですか、これ
「Some day」の場合は、あくまでラストでの真相に驚愕させようと、そこに焦点を集約させた“一発ネタ”であるのに対して、この「Savin me」の場合、

  • 冒頭で提出される「謎」
    (主人公の交通事故を予見したかのような不審な男)
  • 新たな「謎」の提示
    (突然に不審な行動を取り始める主人公)
  • ますます深まる「謎」
    (頭の上に浮かんでいるデジタル数字)
  • さらに「謎」を呼ぶ「謎」
    (自分にだけデジタル数字がない)
  • 徐々に明らかになっていく「真相」
    (救急車で運ばれる老婆)
  • ラストシーンで一気にカタルシス
    (……(自粛)……)

と、謎解きを主流にしているのですね。
そして、驚愕のラストへと一気に収束していくクライマックスには、もう言葉を失ってしまうほどの見事さなのでした。
まさにミステリの王道を行く正統派。
そのあまりの出来栄えゆえに、「PV」というよりも良質の短篇映画を観たような、そんな気さえさせられる名作なのでした。

あとはやはりOasisの「Stand by me」も“正統派のミステリコードに則ったPV”として、外すことはできません。

商店に押し入る強盗、走り回る救急車、どなりあう人々、車上荒らし、女性や老女への暴行、子どもの誘拐……と、実に治安状態の悪い街の様子が断片的に映し出されていきます。
ところが、一見すると街の様子を映しだしているだけだと思われたそこかしこに、実はずっと伏線が張られてあったのですね。
無意味としか思えなかった数々の断片が徐々に集約されていき、ラストでその意味が判ると、それまで見えていた街の景色が一変、180度変わって見えるという、まるでシベリア少女鉄道を観ているかのような作品なのですね。
ただ一度観ただけではよく判らない、二度三度観ていかないと、いったい何が起こっているのか、どうなってしまったのかが判らないという大変難易度の高い作品とも言えるでしょう。
(自分が判らなかっただけに……えへへ)

“歌の世界のミステリ”と言えば、このように映画のようなストーリー仕立てのPVが多かったのですが、“歌詞そのものがミステリとして成り立っている”作品もあるのです。
それがBUMP OF CHICKENの「K」なんですね。

ミステリの世界では、“ラスト1行で落とす”名作が多くありますよね。
例えば、ここ最近の有名なものとして乾くるみの『イニシエーション・ラブ』とか。
このBUMP OF CHICKENの「K」は、“歌詞のラスト1行”で、見事に、きれいに、ストンと落としてくれるんです。
その落とすための伏線が、実はあらかじめ堂々と示されているのですが、そのあまりの“堂々ぶり”にリスナーはそれが伏線であるとはまったく気づかされません。
しかし、実は最後の1行でその伏線がスッと回収されていくのです。
あまりにさりげなく回収されるので、当初はまったく意味が判らないかもしれません。
しかし、その“あらかじめ提示されていた伏線”に気がつくと「うわー、ヤラレタァァァ!」と絶叫してしまうこと間違いナシの名作なんです。
実に美しいミステリの形式になっていますね、この歌詞は。

ただ、ぼくの場合は曲の途中で号泣してしまい、別の意味で落とされてしまいます。
今日久しぶりにこの曲を聴いたら、やっぱり泣いちゃいましたよ。
涙と鼻水で部屋中が大洪水です(きたない)。

ところでこの「K」のYoutubeの動画、その世界観をうまくあらわしていて、実に見事な作品なのですが、これ、PVではないのですよね。
いわゆる「職人」といわれる一般人が製作してYoutubeに勝手にアップされたものなんです。
いやー、「PVだよ、これ」と言われても疑問に思わないほどのその完成度。
この曲がこの絵と合わさることで、余計にヤバ度がアップです。