桜庭一樹トークショー(ジュンク堂池袋本店)

新刊『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』を出版した記念での桜庭一樹トークショーが、ジュンク堂池袋本店で開催されますよ。
そんな訳で会社帰りにレッツゴウ。
桜庭一樹トークショー(ジュンク堂池袋本店)

場所は4階の喫茶室だったのですが、さすがは桜庭一樹人気の高さ。
予約は早くから「満員御礼」として締め切られていたのですが、参加者はほとんどキャンセル・欠席が亡かったものと思われます。ふと見ると、立ち見の方もいらっしゃったほどの大盛況でした(あるいは関係者の方かもしれませんが、とにかくあの狭い喫茶室が人で埋め尽くされていたのでした)。
平日の夜開催と言うから、参加者は「きっと学生が多いんだろうなあ」などと思っていたのですが、実際には学生以外にも、若手サラリーマンから中高年と年齢層はもうちょっと高く幅広かったようでした。

会場入口で受付を済ませると、おみやげが渡されます。
ティーパックにお菓子のセット。
桜庭一樹が前日の日記で、「粗品の梱包をば、これから。」と書いてあったのはこれかあ......と感動。
思わず袋をむぎゅっと抱きしめちゃう変態野郎がここにひとりいますよ。
桜庭一樹からのおみやげ

19時、拍手で迎えられ、桜庭一樹と対談相手である書評家の三村美衣が登場しました。
今日の桜庭一樹のお姿は、黒ワンピースに黒ブーツで、タイツがカラフルなアクセント。
(そういえば、桜庭一樹のときはいつも服装がどうのこうのって言っているような気が......)

始まったトークショー、初めこそややぎこちない感じだったのですが、エンジンが掛かってくると「トークショー」というよりも「仲のいい女子2人の会話」という和やかな感じです。
これまで、桜庭一樹の話し方は「トツトツとした語り口調」だと思っていたのですが、今回はキャッキャ、キャッキャと笑いながらの友だちトークが炸裂です。
きっと会場にいた野郎どもは皆、「可愛いー♪」と萌え萌えに萌えてしまったのではないでしょうか。

さて、そんな萌え萌えに萌えてしまった桜庭一樹の語りが魅力だったトークショー。
レポートをダイジェクトでまとめてみました。

【登場人物の組み合わせ】
物語は、大体が「変人」と「普通の人」の組み合わせで成り立っている。

  • ホームズとワトソン
  • 赤毛のアンとダイアナ
  • ちびまる子ちゃんとたまちゃん

一般的には「普通の人」に感情移入するものなのだが、子どもの頃に読んでいたホームズの場合、ワトソンがオジサンだったため、どうしても感情移入できず、それでハドソン夫人に感情移入して読んでいた。
ただしそのハドソン夫人は、下宿の女将さんではなく、若いメイドの「ハドソンちゃん」。
彼女はいつもホームズたちの会話を立ち聞きし、推理している。

『少女七竈と七人の可愛そうな大人』も『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』も『私の男』も、登場人物はそうした「変人」と「普通の人」の組み合わせになっている。
『私の男』の場合、いつも女2人の組み合わせの話ばっかりだったから、「片方を男にするとどうなるのかな」「それを親子にするとどうなるのかな」と、考えて書いただけであって、基本的には登場人物の組み合わせとしては、他の作品となんら変わりはない。

【子どもの頃の読書体験】
人生を変えた作品はガルシア=マルケスの『百年の孤独』。
15歳の頃に学校の図書室で借りて読み、ものすごく面白かった。
ただ、子供の頃だから一気に読めたんだと思う。
大人になってから読み返そうとするとめんどくさくなることもある。

ひょっとすると、子供の頃の方が頭がよかったのかもしれない。
だから受験なんてできるんだし、ゲームだってできる。子どもたちがゲームで見せるあの集中力はすごい。
だから子供のときにもっと本を読んでおけばよかったと思う。特に「ユリシーズ」(笑)。
子供の時には、たとえ内容が理解できなくても、最後まで読み通せる気力や体力がある。

買った本を、最後まで読まなくなったときが"大人になった瞬間"かもしれない。
子どもの頃って、文庫1冊を買うのにも必死で吟味し、買ってからも何度も読み返したものだが、大人になったら「文庫でいいや」と気軽に買ってしまっている。

【読む本の選び方】
本屋さんは毎日、パトロールのように通っている。
店員さんも、最初は「はっ、桜庭さんっ!」と緊張して挨拶していたが、3回目ぐらいともなると、メールを読みながら通りかかり、ふと顔を上げて目が合うと「あ、桜庭さん、これ売れてますよー」と気軽になっている(笑)。

本屋さんに行くと、日々平台に変化があったり、その店にしかない本というのがあるから楽しい。
ある日突然、かなり昔に出版された初版本が平台にドンと積みあがっており、POPもドカンと出ていると、「誰かが何かの理由で変化を起こそうとしているな」と気になってしまい、つい買ってしまう。
先日も、そうやって買った大坪砂男の「天狗」が面白かった。

自分だけで本を読んでいると、趣味に偏ってしまうので、人からの勧めを聞くようにしている。
この間も、自宅の本棚を取材に来たアンガールズの山根から「『フォレスト・ガンプ』は映画は面白くなかったけど、原作は面白かった」と聞き、「原作があったんだ! 読みたい!」。
こういった本との出会いを大切にしている。

ちなみに、アンガールズが自宅に来たのは、今月末ごろからNHKのBSで始まる新番組のために、本棚を取材に来たもの。

【本棚と本】
自宅では、部屋に本棚は置いていない。部屋が狭くて、本棚を置くと圧迫感があるから。
本棚を設置しているのは、玄関を入って部屋にいたる廊下。
そのため小柄な桜庭一樹でさえ、廊下を通るときはカニ歩きしないと歩けないほど。
防犯になりますね!(笑)

本棚の並べ方は、大雑把に「創元ミステリ」とか「海外」といった感じである。
ただし特別枠の作家がある。それは神林長平(ご本人にサインを貰った宝物も含む)、ガルシア=マルケス、そして佐々木丸美。

作品を書いているときは、その世界感やイメージに合った本を本棚から引っ張り出してきて、周りに積み上げ、それらを"眺めながら"書いている。
ただし、そうやって引っ張り出してきた本はまったく読まない。積み上がった本を見ながら、読んだときのことや世界観を思いながら書いている。
書き終わったら積み上げていた本を戻す。

【桜庭一樹という名前】
もともと、子どもの頃に世界文学全集を読んでいたので、日本の作品より海外の作品の方が馴染んでいた。
そのため学校の図書室でも、海外作品の棚の辺りをいつもうろうろしていた。そんなときに「蜘蛛女のキス」などラテン文学を見つけたのだと思う。
しかし図書室の本はカバーを外してある状態なので、カバーに書かれてあるはずのあらすじがなく、どのようなストーリーなのか本を手に持っただけではまったく判らない。
また、図書室に並べられてある本は単行本ばかりなので、文庫本と違って解説もないから、その作品の背景や、著者が何者なのかも判らない。
特にラテン文学の作者ともなると、男性なのか女性なのかすら、判らないこともある。
そのような「作品も著者もまったく判らない状態」で読むのがとても楽しい。
「桜庭一樹」というペンネームも、そういった「男性なのか女性なのか判らない」ところからとった。

ところが以前に新聞記者のインタビューで、「初恋のひとの名前をつけたんでしょう?」と訊かれたことがあった。
そんなことをするのは『課長島耕作』の世界だけであり、わたしはそんなことしない、とかなり抵抗したのだが、新聞記者もずいぶんと引かなかったこともあった。

三村美衣が「初恋の人の名前をペンネームにつけた"某SF翻訳家"の方がいますね?」と言うと、「え? まさか......」と思わず客席にいる大森望を見る桜庭一樹。
三村美衣から「違います」と言われて場内大爆笑。
結局、その某SF翻訳家とは誰のことなのか判らずじまい。

【田舎はmixi】
「赤朽葉家」という名前にしたのは、もともと「色を名前に使いたいな」と思っていたから。
特に赤が使いたかったので、色の写真集を見ていると「朽ち葉色」と「朱雀色」というのがあったので、「赤朽葉家」「紅朱雀家」という名前を考えた。
ただ「紅朱雀家」だといやに豪華絢爛なイメージになってしまうため、最終的に「赤朽葉家」にした。

『赤朽葉家の伝説』では、舞台の鳥取を南米のように描いてみたかった。
生まれ育った場所でよく知っているため、敢えて鳥取を見ないように、考えないようにして、とにかく南米風にした。

『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』で初めて鳥取を舞台にしたときに、かなりリアルに書いたつもりだったのだが、東京出身の担当者が「これ、日本ですか?」。
都会育ちの人にとっては、田舎の生活はファンタジーなのかぁと実感した。

『私の男』で北海道を舞台にしたのは、テーマが"原罪"と西洋チックなものだったので、日本のどの都市でもあわないなと思った。
するとちょうどその頃に、異動で紋別出身の担当者がついた。網走などであれば、まだどのようなところかイメージできるが、紋別ではイメージができなかったため、「あ、ここかな」と。
担当者に紹介してもらいながら紋別を取材してみると、雪対策のため、三角屋根の家ばかりで和風の家といったものがなく、街そのものが西洋風に感じたのでちょうどよいと思い、その場所に決めた。

よく思うのは"田舎はmixi"。皆が皆を知っている、ということ。
鳥取に住んでいた頃は、とにかくそれが息苦しかった。だから東京に出てきた。
東京は人が多いため、自分で所属するところを選べるところが非常に楽だと思う。

【読書と読書日記】
大好きなカミュの『カリギュラ』が長らく絶版であることが不満だった。
直木賞をとったとき、新潮社の人が来たので「今だったら強気に出れる」と思い、「小栗旬が主役で、蜷川演出の「カリギュラ」が上演されたのに、どうして復刊してくれないんですか」と訊いた。
すると相手は「訳が古くて......」。
これにはプッツーンと切れてしまい、「新訳だからいいとは限らないじゃないですか」とかなんとか文句を言った。
その後、改めて「カリギュラ」を読んだが、セリフまわしに「別嬪さんよ......」といったような、今どき言わないものが多数あったために「ひぃ、ごめんなさい!」。

ミステリが好きでよく読んでおり、どうしても書きたいものがあったのだが、当時の担当はどこも聞いてくれなかった。
そこでミステリだから東京創元社なら聞いてくれるかなと、担当のK島さんに話をしたところ、「そんなに本を読んでいるんだったら、読書日記を書いてみたら?」。
そういったいきさつで、東京創元社のWebサイトで読書日記を連載することになった。

読書日記では、編集者にもこんなに面白い人たちがいるんだと言いたくて書いている。
脚色していると思われるかもしれないが、普通のこと、本当のことだけしか書いていない。
「でも"そういう人"ばかりを書いてしまっているのかも」。
ただ、出版社にはそんな人ばかりがいるのかというと、そうではなく、「敢えて言葉を選んで言うと、"もうちょっと起伏が少ない"」(ここで大森望、大爆笑)。

【今後の予定】
次作は、11月下旬に講談社から出る『ファミリーコーポレート』。
ある女性の5歳から35歳までの30年間の話。
それって「人が殺されたりするんですか?」と訊かれて、「いえ......、......あ、1人死にました」(場内爆笑)。
850枚という依頼で、書き上げて渡したら「1000枚ありましたよ」。

またそのほかにも『赤朽葉家の伝説』で、構想していながら泣く泣く削除したレディースの物語も、1冊にして出す(ただし、まだこれから)。

【イケメンマインド】
客席からの質問コーナー。
「イケメンがお嫌いで、特にイケメンマインドがイヤだと言っておられますが、イケメンマインドって何ですか」
サービス精神のない、人からものを尋ねられても「YES」か「NO」だけでしか答えない奴のこと。
「木拓」(←注:あえて漢字で書いてます)が特にイヤだ。
彼の天下が終わるのを見届けたいから、それまで生きていたい。
(あと5年ほどで終わると思うが)

そういう意味では、チョイ悪オヤジというの苦手だ。
幸いにして周りにはイケメンマインドもチョイ悪オヤジもいないが、先日、文春でエレベーターに乗っていると、途中の階で開いたドアの向こうにチョイ悪オヤジがいた。
彼はエレベーターに乗ってこず、そのままドアが閉まり、「何だったんだ? 今のは?」。

作品にもイケメンマインドは出てこない。......あ、1人だけ「ゴシック」の短編で出てきたことがある。泥棒ですが。
結論:「桜庭作品では、イケメンは殺されるか、犯人にされます」

あっという間に1時間が過ぎ、トークショーは終了です。
その後に、『桜庭一樹読書日記』『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』へのサイン会が行われました。
お楽しみの今回のシールは、表紙イラストにあわせてつくられたシールなんですよ!
表紙の色にあわせて、『桜庭一樹読書日記』の人はピンクのシール、『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』の人はブルーのシールを張ってもらえます。
そのシールのイラストにも5種類あるようなんです。
どのイラストになるのかは、そのときに並んだ運次第。

そしてなんとシールには、もう1種類「黄緑色」がありました!
「黄緑もあるんですね」と訊くと、「これは3冊目用にとっておきますね」とのこと。
もちろんこの場では冗談なのでしょうが、意外にも黄緑色もいい色だったので、実際のところ、3冊目の表紙は黄緑色なのかもしれません。

サインをもらっている間は、シールの種類を覗き込むのに必至で、全然気付いていなかったのですが(多少の違和感はあったのですが、それが何なのか判らず)、後で気が付きました。

サイン、横書きだよ!

横書きの桜庭一樹サインは、初めていただきました。
いったいどうして横書きだったのか、訊けばよかった......気になります。
初めて横書きでもらった桜庭一樹『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』