「ミステリー小説講座 ~読売 江戸川乱歩フォーラム2008~」(立教大学タッカーホール)

今年で5回目の開催となる「ミステリー小説講座 ~読売 江戸川乱歩フォーラム2008~」に行ってきました。
場所は立教大学のタッカーホールって......タッカーって何でしょう、タッカーって。
あ! ひょっとしたら、立教大学って「りっきょう大学」ではなく、実は「たっきょう大学」って読むから「"タッカー"ホール」だったとか(そんなことありません)。
タッカーホール入口

旧江戸川乱歩邸を見学した後で、開場時間すぐにホールに入ったのですが、いやいや、もうすでに座りやすそうな位置や見やすそうな位置の席は埋まってしまっていますよ。
見渡した限りでは、かなり年配の男性が多いですね。
何となく、有栖川有栖ファン(=女性ファン)が多いのかと思っていたのですが、それ以上の高年配男性率ですよ。
あとは市川染五郎目的の女性ファンも割と多かったみたいですね。
そういった方々は、着物を凛と着こなしていたり、なんとなくミステリファンとは異なるオーラが感じられるあたり、なかなか興味深いものがありました。

そうそう。
開演に先だってのご注意アナウンスで、「講演終了後の"出待ち"はご遠慮ください」なんて言われていたので、たまたま会場で会えた方に「有栖川有栖の"出待ち"っているのかぁ、そんなところまで心配しないといけないなんて、大学は大変だなあ」と言うと、「それって、市川染五郎のことじゃ......」。
あ。

講演会終了後には、出版されたばかりの有栖川有栖『火村英生に捧げる犯罪』と、北村薫『野球の国のアリス』のサイン本が購入できます。
全然そんな告知はなかったのですが、講演会が始まる前に「整理券をお配りしています。終了後にその整理券と引き替えにサイン本を販売します」とのことで、エライコッチャ、エライコッチャ。
ミステリーランド久々の新刊である、北村薫『野球の国のアリス』は幸いにしてまだ購入していなかったので、ラッキー!
しかもネコのイラスト入りですよ。
猫のイラストもある北村薫のサイン入り『野球の国のアリス』

肝心の内容ですが、これが期待していた以上にどれも大変楽しく、面白く聴くことができました。

13:30-14:00「イントロダクション」藤井淑禎(立教大学文学部教授)
今回で5回目となる「江戸川乱歩フォーラム」が始まったいきさつや、また乱歩自身のエピソードとして、池袋に引っ越してくる前に住んでいた借家のことなど。
乱歩は、モータリゼーションの時代の到来とともに自作にも自動車を登場させるのに自動車を観察しようと、当時では最新鋭の道路であった京浜国道沿いの泉岳寺あたりの借家に住んでいた。
しかし、さすがに車との騒音や煤煙に耐えられなくなったので、池袋のこの地に引っ越してきたとのこと。

14:00-14:20「歌舞伎と乱歩」市川染五郎×鈴木英一(早稲田大学講師)
11月3日から国立劇場で開催される新作歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」を公演するに至ったエピソードや、見どころなどのPR。
しかし宣伝臭はまったく感じられず、染五郎の非常に落ち着いた語り口に「メチャクチャ面白そうやん」。
そもそもこの新作は、原作が乱歩の『人間豹』を江戸末期に置き換えたもの。
この『人間豹』には、「他人になりすます」シーンがあったり(=早変わり)、悪人が魅力的であったり(=悪の華)、殺しのシーンがあったり(=殺しの美学)、気球に乗って逃走するシーンがあったり(=宙づり)といった、歌舞伎のお約束に繋げられるところも多く、そこをぜひお楽しみにしてくださいとのこと。

ちょうど今、モーニングコミックスで「かぶく者」を読んでいるため、新作における稽古の話や、悪の華、また殺しの美学のシーンなどのエピソードでは、「ああ、なるほど!」。
コミックにおけるエピソードがちょうどよいガイドになったために、余計に興味深い話として聴けたのでした。
歌舞伎を一度は行ってみたいとは思っているのですが、歌舞伎座ではなく、こうした国立劇場とか、コクーン歌舞伎とか、そういったところからまずは入っていくといいんでしょうね。
会場では前売券が発売されていました。

ただ、いかんせん時間が短いのです。
恐れていたとおり、ちょうど20分といえばエンジンが暖まり出す頃。
最初はぎこちなかった市川染五郎の口が、ようやくお父さんである松本幸四郎とのCMの話題になってなめらかになってきたなと思ったところで、時間切れ。
非常にもったいないと感じたのでした。
ちなみに誰も「いよ、高麗屋っ!」と掛け声を発していませんでした(当たり前です)。

14:20-15:30「ミステリー作家対談」有栖川有栖×北村薫
やんちゃ坊主の有栖川有栖に対して、お父さんのような包容力の北村薫、の図式は健在。
今回は対談と言うことで、「真面目な北村薫」に対して「ツッコミボケの有栖川有栖」という、漫才の図式も見えてきました。
さすがは有栖川有栖さんってば、大阪人。サービス精神旺盛なんですよね。
とにかく彼が語ると、乱歩の少年探偵団シリーズがいかに「バカミス」であったのかと言うところに気付かされるのですね。
例えば、二十面相。
普通に泥棒すればいいもの、わざわざ「電人M」「鉄人Q」ではロボット、「宇宙怪人」では宇宙人、「透明怪人」では透明人間になりきって、動き回っているのですよ。
有栖川有栖曰く、二十面相は「ふふふ、今日はロボットでいこうかな」とか言っているのではないかと。
また『黄金豹』(人間豹とは似てもにつかないバカミス)に至っては、二十面相が豹になって走り回るのですから、これには北村薫も「さぞかし二十面相も、ヒザが痛かったのではないでしょうかねえ」。
しかもこの豹、「電話まで掛けてくるのですから、もう訳判りません」と言ったあたりでは場内大爆笑。
しかしながら乱歩の素晴らしいところは、そういったバカミスがあろうとも、様々な伝説があろうとも、この世の中には「江戸川乱歩なんて嫌いだ」という人がいないところ。
また、没後何十年と経つのに、いまだに彼の作品が現役として出版され続けているところ。
それはやはり、彼が全力でいつも作品に向き合ってきたから、その姿勢や気持ちが皆を動かしているのでしょうねえ、とのことで、やはり大乱歩はすごいのであったのかと再確認できる内容なのでした。