旭堂南湖「ふるほん講談」(東京千駄木・旧安田楠雄邸)

講談って、前々から一度は行ってみたいと思っていたのですね。
でも、新しいジャンルの舞台って、なかなかキッカケがないと行くタイミングも判りません。
たまに講談が行われるという情報を知っても、「どうしようかな」。
何しろ「講談」って歴史にちなんだ話を“読んで聞かせる”というものらしいのですよね。
ということは、学生のときに日本史がまったく苦手だったぼくが行っても……うう。 走馬燈のように甦る日本史の授業の悪夢。
あんな思いをしてしまうのかと思うと、行くのに二の足を踏んでいたのです。

ところが。
関西ではよく「探偵講談」と題された講談会が行われているそうなんですね。
探偵講談ですよ、探偵講談。
「それだったらぼくでも判る!」という題材で講談を行うというのですから、気にならない訳がありません!
しかし残念ながら開催しているのはいつも大阪。
こりゃ行けないなあ、といつも指をくわえていたのでした。

そんなある日のこと。
たまたま知ったのが「ふるほん講談」が行われるという情報。
古本を題材にした講談を行うということで、題材は……うおう!
ホームズに海野十三!
知ってます知ってます、判ります判ります!
講談師は誰かと見てみると……うおう!
その前々から羨ましがっていた関西で「探偵講談」を行っている旭堂南湖なんだそうですよ!
「ふるほん講談」
これはぜひとも行かねばなりませんって。

そんな訳で、今日は「旧安田楠雄邸」に向かってレッツラ・ゴウ。
地下鉄の千駄木駅から団子坂をエッチラオッチラ上がった閑静な住宅街の真ん中に向かいます。
新緑が眩しいぜ、旧安田楠雄邸

この「旧安田楠雄邸」は、今から90年前に建てられた和洋折衷の住宅跡とのことです。
しかし安田財閥創始者の孫が12年ほど前に亡くなって、一時は取り壊しも検討されたそうですが、遺族の手によってナショナルトラストに寄贈され、現在、同会によって保存されているのだそうです。
普段は曜日を決めて公開しているそうですが、今日は講談会のため、贅沢に貸切状態です。
イベント会場となったのは、建物奥にある30畳ほどの大広間ですが、そこにいたるまで、応接間や廊下が醸し出す“築90年の歴史”の雰囲気に圧倒されるばかりなのでした。

ちなみにこちらが応接間です。
この部屋の内装に、思わず自分自身が“明治期の紳士”になった気持ちになるのです。
旧安田邸の応接間

こちらが玄関から応接間を通って大広間にいたる「畳廊下」です。
めちゃくちゃ判りやすい和洋折衷ですよね、これは。
客人は畳の上を、家人は板張りの上を歩いていたそうです。
畳に申し訳程度の板張りで和洋折衷な「畳廊下」

そして会場となる大広間「残月の間」には、五月人形が飾られてあります。
この五月飾り、すべてが特注だそうで、大きさも床の間にピッタリ合うようにつくられているのだそうです。
そのとおり、とても大きすぎてすべてをフレームに入れるのは不可能でした……。
(床の間が大きすぎてフレームに収まりきらないってどういうことなのよ)
安田家特注の五月飾り

そんな訳で、会場の大広間に辿り着くまでにも、既にゲップが出てしまうほど満足してしまうのでした。

やがて14時、定刻通りに「ふるほん講談」が始まりました。
今回は、CS放送のミステリチャンネルの収録も行うそうで、煌々とライトが照らされてちょっとした舞台のようです。
テレビ収録がこんな間近で行われるとあってか、会場にみなぎる緊張感。
しかしそんな緊張感を察したのか旭堂南湖自身が、軽快な前フリトークに始まり拍手の練習、そして“ちょっとした演出”と、軽い笑いを観客に与えほぐしていく様は「さすが」。
本篇が始まる頃にはすっかりウォームアップもできあがっていたのでした。

そして始まった講談は紙芝居も含めて四題。
「明治ホームズ」がとても興味深いのです。
なんでも明治期にホームズが日本に翻訳されたときは、「判りづらいだろう」ということで“翻案”され、「赤毛連盟」がなんと「禿頭倶楽部」。
しかも最初の頃には「●●●●」と、ネタバレそのものも題名が付けられているものもあったとか。
明治期、初めて海外の小説を日本に紹介するときの苦労が偲ばれますね。
もっと面白いものになると、なんと名前まで変えられていたものもあったようです。
ホームズが「堀田さん」、ワトソンが「和田さん」って……もはやギャグマンガの世界です。

休憩時間を挟んだ後半は海野十三の「蠅男」。
講談として話し始めるも、聞くのに熱中してしまったのか、アッとという間に大円陣。
しかもこの話、本来であればめちゃくちゃバカミスのはずだったのに、そうも聞こえてこないのは講談師の力によるものなんでしょうか……。
(エログロ部分は割愛されたのだと思いますが)
さらにこの『蠅男』を例にとり、現代における言葉狩り的な風潮について旭堂南湖の優しい口調ながらも、チクリチクリと刺すあたり、本人の意志とは無関係なところでかなり苦労させられているところもあるのかなあ……と勝手に想像。

いやあ、それにしても初講談が自分の興味のある分野で、よく知っている内容で、そして、そもそも旭堂南湖の語り口が非常に判りやすく面白くダレさせないと、とても楽しめたのでした。
ぜひとも関西だけでなく、全国でも「探偵講談」を行って欲しいなあ……と密かに願ってやまないのでした。
2階の「書院」の窓の外に広がる庭木の緑が眩しいのです

ところでお客さんも50名以上は入って大入り満員だった会場、ぼくの斜め後ろには……おおう。岡崎武志ですよ!
岡崎武志といえば、「岡崎武志サイン本のひみつ」でも紹介したイラスト入りサインでお馴染みのライターさんです。
もう思わず「毎回サインに付けられているイラストが楽しみです!」などと声をかけてしまいました。
突然に見知らぬ野郎から声を掛けられてもイヤな顔ひとつせず、「ありがとうございます。……関西の方ですか?」などと気さくに会話をしてもらって、もう有頂天野郎のぼく。
ついには「イラストのレパートリーはどれぐらいあるのですか?」などと、「そんなもん知るか!」と罵られてもおかしくないような質問までしちゃってますよ。
ああでもイラストタッチと同じく優しいオカタケさん、「そのときに練習したりしてるものもありますからね」。
うーん、『女子の古本屋』も早く買いに行かなくっちゃ!