ひょっとこ乱舞『愛にキて』(王子小劇場)

ひょっとこ乱舞の笠井里美さんから、公演のご案内メールをいただきました。
ひー、危うく見逃してしまうところでした。
すみません、すみません。でもありがとうございます。
そんな訳で、慌てて王子小劇場にレッツゴウしてきたのでした。

しかし王子小劇場って始めていくところなんですが、場所、判るでしょうか。
前の夜、Webサイトで地図を見てみると、なんだ。駅からすぐのところじゃないですか。
だったら楽勝ですよ、ラク勝。楽ショー。ラクShow。

......なんて、王子をナメてかかっていてはエライ目にあうのでした。
何しろ、駅前といえども細かい雑居ビルが多すぎるのです。
どこよ、劇場は......と手がかりを求めて、駅前の大きな道路を行ったり来たり。
ウロウロすること、およそ数往復。
ようやくみつけた入口は、こんなところにあるのでした。
王子小劇場の入口は......どこですか?
ってどこですか!?
ここですよ、ここ。
王子小劇場に入口は......ここでした

ここが王子小劇場と判る案内は、たったのこれだけなんです。
「王子小劇場」と大々的に名前を出すのは、何かマズイ事情でもあるのでしょうか。
きっとウラの事情があって、それで劇場入口はリサイクル店でカモフラージュしているのですよ......って、ハングマンじゃないんですから!
(ハングマンがカモフラージュしていたのはタクシー会社です)

今回は、たまたま行くのがマチネ公演だったからよかったのです。
もしこれがソワレ公演だったら、絶対にこの劇場入口は見つけられなかったことでしょう。
皆さんも、リサイクルショップにカモフラージュされた王子小劇場には、くれぐれもお気を付けください。
......って、こんなに迷ったのってぼくだけでしょうか。

そんなトラブルなんて何もなかった顔をして、観に行ったのはひょっとこ乱舞の『愛にキて』です。
ひょっとこ乱舞『愛にキて』

会場に入ってまず驚いたのは、「セットがあるよ」。
ひょっとこ乱舞といえば、これまで観に行った2回とも、ステージにはセットらしいセットがなかったのですよね。
だだっ広い空間を、役者たちが縦横無尽に走り回る圧倒的なパワーで観客を圧倒するのが、その特徴だったのでした。
下手にセットなんて設置しても、役者たちの動きを封じ込めてしまうだけなんですよね、きっと。

それが今回のステージはどうでしょう。
木製のオブジェが、ステージの両端にまでいっぱい、そして天井高くまで備えられているのです。
だから、ステージ空間なんてわずかしかありません。
いや、通常のステージであればこれだけのスペースがあれば十分でしょう。
が、ひょっとこ乱舞には狭すぎますって。

実際、始まってみると「やっぱり」。
セットを設置してスペースを削ったからかどうも役者の動きが押さえつけられているように見えてなりません。
その分、随分と登場人物によるストーリーの背景説明が多用されています。
この方法は、明らかに前回の『トラビシャ』でも使われていたものですよね。
『トラビシャ』のときは、その内容が「"演劇"という枠組みを破壊する」という実験的なものだったので必要な方法だと思うのです。
しかし今回は、そんな実験的な作品ではないようなのです。
正直、今回観に来たのは失敗だったかな......と思っていたのですが、おいおい。

失敗どころか、これは最高傑作じゃないですか! スゴイのですよ、スゴイ!

確かに前半は物語が説明的だし、エピソードもバラバラでつながりがよく判らない。
それが、中盤あたりでバラバラだったエピソードがひとつに集約していくあたりで話の流れが変わってきます。
それまでバラバラに披露されてきたエピソードが、伏線として効果的に回収されていくのですよ!
一見無関係だと思われていたエピソードや物語背景も、ストーリーとして、また登場人物のセリフの中で伏線として回収されていくこの小気味よさったらありゃしません。

そしてクライマックス。
ここで、大きく散りばめられてきた伏線がキレイに回収され、そして隠されてきた感動的なエピソードが用意されているのです。
この時点でぼくのマナコからは大量のお水が止めどなく流れ出してしまって、モウ大変。
さらには主人公の夫婦が再会するシーンにおいては、「ウソ......」。
ひょっとこ乱舞が今回、ステージにセットを用意したその訳は、このシーンのためにあったのではないでしょうか。
見えたのですよ、確かに。街のシンボルが。その下を走る大きな道路が。その幅の広い道路を挟んで叫びあう夫婦の姿が。
やられました。

これで終わるのかと思いきや、まだエピソードが残されていました。
劇団員全員による迫力ある「動」が一転して落ちる「静」。
もしこれがテレビだったら、放送事故かと思うような緊迫感溢れる静けさを前に、観客はなすすべもなく見守るしかありません。
やがて少しずつ見えてくる動きがちょっとずつ大きくなっていって、そして、あっという間に針は振り切れてしまいます。
緊張感を保ったままの「動」に、観客は居心地悪い思いを禁じ得ません。
このまま終わっちゃうとイヤだよなあ......と思っていたところで、最後の最後。
残されていた伏線が、横手からスッと回収されたのでした。
収まるべきところに収まる見事な回収。
残っていたパズルの最後の一片が、ピタッと収まったようなそんなステキな伏線の回収。
ああ、これはもう卑怯です! 禁じ手です! でも泣いちゃいます!

とにかく、こんな名作をひっそりと終わらせてしまうのはもったいない限りです。
ぜひとも、この作品はひょっとこ乱舞としての代表作として、大々的に世に問うてみて欲しいものですね!