バレンタイン・ミステリ(三重密室の謎)

お願いです、誰かこのナゾを解いてください……。

今日は男子も女子も浮かれポンチなバレンタイン・デイ!
ぼくだってウキウキワクワクしながら会社に行ったんです。
席に座って「さあ、女子諸君。恥ずかしがらずにみんな寄っといで」オーラを全開にしたのですが……誰も来ません。
いつもだったらまずは朝イチのコーヒーを買いに行くところをガマンして、席に座っています。
トイレに行きたくなってきました。それでもガマンして席に座っています。
それでも誰も来てくれません。

そのうち始業時間になってしまいましたよ。
仕方ありません、「ううん、もう。みんなシャイなんだから……」と思うことにしました。
オシゴトに取りかかろうと、机の引き出しに掛けてある鍵を開けました。
確かにこの手で鍵を開けました。

すると、そこにあったのは……チョコの包み?
引き出しのなかに?
鍵が掛かっているのに?

確かにチョコの包みが引き出しのなかに置かれてあったのですよ。
鍵が掛かっている引き出しですよ。
どうして……と思ったところで、「あ、そうか」。
合い鍵ですよ、合い鍵。
もしものときに備えて、女子チームのみんなと総務の女の子が机の引き出しの合い鍵を持っているのです。
その合い鍵を使って引き出しを開けて、チョコを入れたに違いありません。
ホント、シャイなんだから……。
しかしこれ、誰から?

名前はどこにも書かれてありません。
そもそも、義理チョコなんだったら堂々と渡してくれればいいものを、こんな風にコッソリ渡すと言うことは……あれ?
マジですか?
義理じゃないんですか?
本気ですか?
本気と書いてマジと読むのですか?
うひひひひ。

だったらソッとでもいいんです、名乗り上げてくださいとばかりに、コソコソ1人になる機会をつくってしまうところが男の哀しい性(SAGA)。
トイレに行くにも「さあて、トイレに行ってこようっと」。
昼休みには「さあて、メシでも食いに行こうかなあ」。
不自然に独り言が多くなっていますよ、オレ。
しかし誰も名乗り出てくれません。
ううーん、イケズー。一体誰なのよ。

そうか!
オシゴト中は周りにみんなの目があるから、きっと終業後にコッソリ名乗り出てくれるに違いありません!
うひひひひ。
だったら、なるべく遅くまで残るようにしましょう。
今日しなくてもいいことまで片付けていっちゃいます。驚異の作業効率です。恐るべき生産性。
そんな来週やるはずのオシゴトを片付けながら、周りの様子を見ていると……おい。
みんな帰っちゃいましたよ!

これはどうしたことでしょう。
そうか!
会社では周りにみんなの目があるから、きっと外でぼくが出てくるのを待っているに違いありません。
こんな寒いなか、あまりに待たせてしまうのは気の毒です。
ああ、こんな時間になってしまっていますよ。風邪を引かせてしまっては申し訳ないのです。
ヤバイのです、ヤバイ。
そんな訳で急いで会社の外に出てみたのですが……おい。
誰もいませんよ!

いや、ひょっとしたら駅にいるのかもしれません。
最寄り駅の改札口でキョロキョロしてしまったのですが、ウワーン、待ち合わせしているアベックばっかりで、ぼくの待ち人(ぼくを待つ人)はいないのですよ。
からかわれたのかなあ、明日みんなに「実はずっと見てたんですよ」って笑われるのかなあ、とモンモン。
遂に家に帰ってきてしまいました。

さて、問題は相方です。相方。
彼女にこのチョコを見せるべきでしょうか。
うーん、ここにきてまだ悩んでしまっているのが、哀しい男の性(SAGA)。
とりあえずカバンの奥深くに仕舞い込み、しかし見つかっても隠しているようには見えないようにさりげなさを装うことにしました(かなりイヤラシイ)。

「ただいまー」と家のなかに入ると、「おかえりー」とニヤニヤ笑っている相方。
チェシャ猫か。
相方は最大限に浮かべたニヤニヤ笑いを隠そうともせず、「チョコ、どうだった?」と訊いてきました。
「うん、義理チョコ、ギリギリかな」。我ながら意味不明な苦し紛れのダジャレです。
すると相方は

「引き出しにチョコ入ってなかった?」

ドキィィィィ! なぜにそれを?
もはやバレてしまっていては仕方ありません。「どうして判ったの?」と訊くと、相方は澄ました顔で

「だってあれ、私のチョコだもん」

……え?
「ほら」とレシートを見せてくれました。
おお、どうやら本当に彼女が買ったもののようです。

相方曰く、毎年、家でチョコを渡しても、ぼくは「ふうん、ありがと。」とあまりに素っ気ないので、今年はギャフンと言わせてやろうと思ったらしいのです。
ええ、ええ、もう思う存分ギャフンと言わせていただきましたよ。
だからお願いです。教えてください。

「どうやって会社の建物に入って、部屋に立ち入って、引き出しの鍵を開けて、チョコを置いたの?」。

これって、いわば三重の密室じゃないですか!
「みえ」じゃないですよ、三重。「さんじゅう」ですよ、「さんじゅう」。3つ重なっているんです。
(判りますって)

相方は、ぼくの会社のことをまったく知りません。
会社がある住所すら知らない可能性が高いのです。
それに、会社だって社員証か入館証がないと建物に入れませんし、さらには部屋にも入れません。
社員に知り合いがいるはずもありませんから、あらかじめチョコを渡して、置くようにお願いをすることもできません。
いや、もし仮に知り合いがいたとしても、引き出しの合い鍵を持っている人は限られるのです。
そんな身近に、相方と知り合いがいるなんて聞いたことはありません。
合い鍵を持っていない社員でも、あるいはぼくが持っているホンモノの鍵を渡して置くようにお願いすることも考えられますが、いえいえ。
置くとすれば昨日の夜ですが、会社を出てから、今日、会社に行くまでの間ずっとぼくが鍵を持っていました。

まさかこれだけのために、合い鍵をつくっておいて誰かにお願いした……?
それはいけません、ダメです。
そう言うと、「そんなことはしません」。
会社に無断侵入したり、勝手に合い鍵を作成したりといった“悪いこと”はしていないということで安心です。
しかしそこはそれ、どれだけお願いしても、彼女がどうやって引き出しにチョコを置いたのか教えてくれないのですよ。

そんな訳でさらにモンモン度がアップしてしまって悶絶してしまっている今日の夜。
お願いです、誰かこのナゾを解いてください……。

ちなみに、バレンタイン・ミステリ、お騒がせの中身は「いちご大福のカカオパウダー掛け」でした。
悔しいけど、メチャウマです。
バレンタイン・ミステリ、お騒がせの中身は「いちご大福のカカオパウダー掛け」でした