江國香織『がらくた』トークイベント with 古川日出男(丸善・丸の内本店)

江國香織が新作長編『がらくた』を出した記念に、本人による朗読&トークイベントが行われると聞き、ミーハー心がムズムズ。
そして何と、そのトークショーの対談相手として、ゲストに古川日出男が来るのです。
古川日出男ですよ、古川日出男。
江國香織と古川日出男とは不思議な組み合わせですが、とにかく、古川日出男ファンとしては、これは何としてでも行かねばなりません。
江國香織『がらくた』トークイベント with 古川日出男

そんな訳で会社の近所ということもこれ幸い、丸の内オアゾの丸善にある「日経セミナールーム」に行ってきました。
到着してみて、「ぬおう!」。
お客さんは9割以上が女性です。おそらく江國香織ファンの方々なんでしょう。
ぼくのような古川日出男ファンが、勝手に「古川日出男による江國香織『がらくた』朗読&トークイベント」として来ている人はいないのでしょうね。
というか、もしぼくが勝手に「古川日出男による江國香織『がらくた』朗読&トークイベント」なんて思ってと知られたら、会場の皆さんにシバキ殺されていたかもしれません。
すみません、すみません、すみません。

さて、そんな訳で始まったイベント、颯爽と登場した江國香織はタンクトップ姿で、"気っぷがよくカッコイいい姉御"という感じです。
一方、古川日出男はあの文体から想像するようなストイックで恐ろしい職業作家、という雰囲気は一切なく、"やさしい隣のお兄さん"なのでした。

まずは2人で交互に『がらくた』の各章を朗読していきます。
もちろん長篇なのですべてを読むわけではなく、場面場面ごとのダイジェストを朗読していくのです。
江國香織はどこかトツトツとした読み口であるに対して、古川日出男は緩急激しくダイナミックな語り口でサービス心が旺盛です。
同じ小説を読んでいるはずなのに、まったく異なった物語を聞いているかのような印象を受けるのでした。
ただ、正直言うと、江國香織の小説はどこかリズム的に「朗読向けではない」という気がしました。
何というか、"江國香織の文章"って「言葉に出して読む」リズムで書かれているのではないのですね。
文章の継ぎ目や句点の打ち方といった、文章そのものを構成する骨格がきっと独特なのでしょう。
そういった箇所が、2人とも読むのにやや辛そうな気がしたのでした。

約30分掛けて『がらくた』のダイジェストを朗読したところで、今度は2人によるトークが始まります。
どちらかというと、対談と言うより、これまたサービス精神旺盛な古川日出男が、江國香織を上手く話にのせて、どんどんと引き出しを開けて中身を引っ張り出させていくかのようにリードしていきます。
また古川日出男が持つ独特の言語能力に、江國香織もすっかり安心して身を任せているようで、打ち合わせは一切なしのぶっつけ本番とのことでしたが、なかなか話が大きく広がり、面白く聴くことができたのでした。
以下、印象に残ったトークのエピソードがかなり多くなってしまったので箇条書きにします。
(これでもかなり削ったのですが)

(古川日出男)
小説には「本を開くと手がニュッと飛び出て「入ってこい」と読者を引っ張り込むタイプ」と「読者自らが本のなかに「入りまーす」とくるタイプ」があるが、江國香織の小説はそのどちらでもない。
血液が流れているようなリズムがあるから、「指先から血液の流れとなって体に入ってくる」感じがする

江國香織の小説は予定調和がない。登場人物が突飛な行動をとったりなど、物語を強引に引っ張ることが多いが、「これでいいのです」という妙な説得力がある。だからあらすじ紹介は難しい

『がらくた』はラストの強引さが素晴らしい。思わず口をアングリ開けて驚いてしまった

江國香織の小説はよく「クールだ」と評されるが、決して冷たいわけでもなく、また"小説の体温が低い"訳ではない。なのに「クールだ」と言われるのは、きっとその江國香織自身持つ"気高さ"が物語に現れているからではないか

(江國香織)
9歳の子供だから何もさせないというのは悔しかった。9歳の頃の自分と今の自分は同じ実力を持っている。9歳の頃にできたことは今でもできるし、今できることでも、9歳の頃にはできていた

(古川日出男、江國香織)
小説を書くときは、構成は考えるが、あらすじは考えない。あらすじを考えるぐらいだったら、本篇を書きたい

2人の小説はまったく別物で似ていないようだが、予定調和がなく、強引に物語を引っ張るところが実は似ている

江國香織「登場人物の1人1人については、書き始める前から徹底的に細かく人物設定を行い、その人物像をつくりこむ。例えば、その人物の過去の出来事や生活、経験したこと、身長......」
古川日出男「そうそう、身長は大事だよね。目線の高さが変わってくるから」

江國香織「言葉では表現できないものってあります?」
古川日出男「ありますっ!」
江國香織「......(即座に断言されて絶句)」
古川日出男「"無神論者"の話に似ているんですね。無神論者は「神なんていない」と断言してしまった瞬間には、「いない」と言うところで神を想定し、いることになってしまう。同様に、「森羅万象は言葉で表現できる」と言い切った瞬間には、逆に「では森羅万象が存在しない世界を言葉で描けるのか」ということになってしまうんです」

江國香織「古川さんは、ある小説の登場人物で『無洗米は嫌い』と言うセリフがありましたが、実際のところ、古川さん自身は無洗米はどうなのですか」
古川日出男「......(絶句)、いや、無洗米そのものが嫌いじゃないのですよ。無洗米というエコロジーにつきまとう"あざとさ"に腹が立つのです。ただ、無洗米そのものには罪はないので、いずれは「無洗米が好き」というセリフを出すかもしれませんね」
江國香織「変なところでバランスをとる方なんですね」(場内、爆笑)
古川日出男「ぼくは結構何に対しても腹が立つのですよ。テレビを見ていてCMで「これはステキですね」と言われると、「それは全然ステキなんかじゃないっ!」って怒ってる訳ですよ。だからぼくがテレビを観ているとうるさいですよ」(会場内、大爆笑)

などと話は盛り上がりながらも、司会の方が締めに入ったところで時計を見て「うわ」。
もう9時前になっているのですよ。入場に少々時間が掛かったとはいえ、あっという間の2時間なのでした。
当初は「江國香織と古川日出男なんて不思議な組み合わせだなあ」と思っていたのですが、いえいえ、「作品の芯の部分は似ているかもしれない」と言っていたお2人だからか、なかなか話が弾んで大きく膨らみ、ときには脱線し......と、江國香織ファンはもちろん、ぼくのような古川日出男ファンにとっても楽しい時間を過ごせたのでした。

残念ながらサイン会こそありませんでしたが、会場内では江國香織『がらくた』のサイン本が発売されていました。
もちろん古川日出男の本も『ベルカ、吠えないのか?』『LOVE』『僕たちは歩かない』『サマーバケーションEP』の4作品がいずれもサイン入りで並べられていました。
が......とほほ。
やはり江國香織のサイン本は飛ぶように売れて行っていたのですが、古川日出男の本はなかなか減っていないようでした。
そんな訳で、ひょっとすると、明日以降、丸善丸の内本店に行くと、古川日出男のサイン本が並んでいるかもしれません......。

ちなみにぼくはちょうど『僕たちは歩かない』だけサイン入りで持っていなかったので、ラッキー!と買わせていただきましたとも。
江國香織『がらくた』サイン本と古川日出男『僕たちは歩かない』サイン本