『デトロイト・メタル・シティ』で死にかけました

今日のブログでは、忘れた頃にやってくる"本の紹介"など。

以前から朝日新聞で何回もマンガ書評で取りあげられていて、メチャクチャ気になっていたマンガがあったのです。
その割にはタイトルや作者の名前なんてぜーんぜん覚えていないものですから、気になってはいたものの、長らく放ったらかしになっていたのでした。
それがたまたま行った本屋さんのマンガコーナーにドンと積み上がっていたのですよ。
そのあまりに特徴的な絵に「これだあぁぁぁっ!」

白泉社から出ている『デトロイト・メタル・シティ』だったのでした。
「おいおい、今さら『デトロイト・メタル・シティ』かよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そのとおり、今さらなんです。
だって、出版社が小学館でも講談社でも集英社でもなく、白泉社なんですよ。
あの「花とゆめ」の白泉社って......。
もともと、どちらかと言えば「りぼん」派だったぼくにとっては、もっとも縁の遠い出版社だったのですから仕方ありません。
白泉社で知っているマンガといえば、『パタリロ!』、『ガラスの仮面』、『ツーリング・エクスプレス』、『ぼくの地球を守って』ぐらいのものでしょうか。
あ、今では『秘密 -トップ・シークレット-』もありますね!
......って、全部女性向けやん。
白泉社は青年向けマンガ誌も出していたのですね。
そいつが盲点だった訳なのです。

ようやく見つけた『デトロイト・メタル・シティ』が、3巻揃ってドンと積み上がっていたので一気に大人買いしたのでした。
そして読み始めたら......もうエライことになってしまったのですよ、セニョール!
何しろ、1ページごとに、いや、もう1コマごとに爆笑してしまって、なかなか先に読み進めることができないのです。
夜中にひとり、マンガを読みながら1コマごとに腹を抱えてひぃひぃ悶絶して、挙げ句の果てには座椅子の上で腹筋がよじれるわ、肺は呼吸困難になるわで苦しみのあまり、のたうちまわっているほどなのです。
不気味ですよ、不気味。ヤバイったらありゃしません。
いつもはマンガを一気読みしてしまうぼくなのですが、この本は1話ごとに強制的に休息をとらないと、死んでしまいます。
いや、これ、冗談ではありません。本当なんです。
夜中に笑いすぎて「ヒィィ......ヒィィ......」と息ができなくなって、ほぼ臨死体験、実にデインジャラスなゾーンに足を踏み入れてしまったのでした。
その1コマ1コマの衝撃波が、全篇に渡って「これでもか」「これでもか」と繰り出してくるからもう大変。
そんな劇薬指定なデインジャラス・コミックを、一気に3巻も買っちゃったものだから、リスクも3倍。
危ういところで死んでしまうところなのでした。

ストーリーはとにかくオバカのオンパレード。
主人公の青年は、大分の田舎から上京してきた素朴で小心者な青年。
好きなアーティストはカヒミ・カリィやフリッパーズ・ギター、好きな映画は「アメリ」という青年が、なぜかインディーズレーベルのデスレコーズと契約をしてしまっているのです。
オシャレな音楽を目指したい彼の志向とは真逆に、デスレコーズのキレ者社長によってもっとも嫌いな音楽であるデスメタルのバンド『デトロイト・メタル・シティ(DMC)』を組まされ、ボーカル兼ギターの「ヨハネ・クラウザーII世」となり、カリスマ人気を博する......というもの。
このカリスマ人気を支える「ヨハネ・クラウザーII世」の伝説がとにかく凄まじくおバカなんですよ。
勝手に、彼らのファンたちが作り上げたものなのですが、いわく

  • 「ヨハネ・クラウザーII世」はこの世の全てを支配する本物の悪魔である
  • 生まれてすぐに自分の危険性を感じて「殺してくれ!!」と言った
  • 異常性欲者であり、人間の女性だけでなく目に入ったものは非生物ですら見境なくレイプする
  • 空気中の二酸化酸素をレイプすることで、クラウザーさん素(元素記号でCR2)を生成する

などなど。

こうしたファンが勝手に作り上げた「クラウザーさん伝説」に加えて、主人公の彼が、見た目の悪魔的ルックスとは裏腹に、持ち前の生真面目さから、ファンたちが引き起こした騒動を何とかしようとし、

  • 東京タワーをレイプして妊娠させ、その結果六本木ヒルズができた
  • 猟奇殺人者で「48のポリ(警官)殺し」を身につけており、公衆の面前でもっとも危険な業で警官を叩きのめす
  • ライブ中に公開自殺を決行
  • あるときは生首だけで登場し、あるときは身体だけで登場する

など、やることなすことすべて「DMCファン」たちの間で話が大きくなっていってしまい、さらなる伝説を作り上げていくことになるのです。

しかもこのマンガの主人公、自分がデスメタルの帝王「ヨハネ・クラウザーII世」であることに嫌悪感を抱いている割には、ファンの期待に背かないためにいつでも光臨できるよう、普段からメイク道具とコスチュームを持ち歩いているのです。
しかし正体は明かさず、伝説だけを残して立ち去るのみ。
ここで思い出すのが変身ヒーローものなんですね。
ただのお下劣マンガかと思いきや、こうした変身ヒーローが抱えるジレンマを見事にギャグとして昇華させているのです。
変身ヒーローは、自らの正体を明かせられないジレンマがテーマになっているのですが、アレって考えてみたら不思議なんですね。
正義の味方なんだから、「フハハハハ、ヒーローの正体は、実はオレだっ!」と言ってしまえばいいのですよ。
なぜ言えないのか、不思議なくらいです。
ひょっとしたら、「フハハハハ、ヒーローの正体は、実はオレだっ!」なんて言ってしまったら、次から次へとトラブルがあるたびにお願いに来られてしまって、自分の自由な時間がなくなるぜ、セニョリータ、なんて思っているのかもしれません。
うーん、なんて自分勝手なヤローだったんだ、変身ヒーローめ。

ところがこの本は違います。
何しろ「産まれてきたときに両親を殺害し、レイプした」と誠しなやかに噂されている悪魔の帝王です。
歌詞の内容も、キレ者社長の命とはいえ、過激なまでに女性蔑視、人権無視、犯罪の煽動など、非人道的・非社会的な曲をつくっているのですから、そりゃ小心者で素朴な田舎青年の彼には正体を明かすことなんて到底できはしません。
「ありきたりな変身ヒーロー」ものとは異なるジレンマのギャップに、おかしさがこみ上げてくるのです。

しかし、こうした徹底的におバカなストーリーの根底には、見事なまでに作者のデスメタルに掛ける「LOVE」が通じるのです。
お下劣なだけではありません。「LOVE」ですよ、「LOVE」。
All You Need Is LOVE.

ああ、もう『お父さんは心配性』なきあとのギャグマンガ界を救うのは、この『デトロイト・メタル・シティ』だけなんですよ!
あ、ギャグマンガ界を救うのは『ギャグマンガ日和』のアニメ版もありました。
でも、アニメ版の放映はもう終わっちゃっているから、やっぱり、ギャグマンガ界を救うのは『デトロイト・メタル・シティ』だけしかないのです!