【前回までのあらすじ】
ひょんなことから、サラリーマンにとって禁断の地「オフィスビル屋上」に上がることになったぼく。
頭のなかでは「バレーボールをしている制服女子社員」の妄想がいっぱい。
ところがもちろんそんな制服女子社員などいるはずもなく、他の会社の人たちに混じり、大手町ビルヂング屋上の小部屋に納められている観音さまにお参りするのでした。

無事にお供物もゲットし、名残惜しく屋上を去ろうとしたときに目にしたもの、それは......

屋上なのに、なぜかその上にはさらに出窓のある部屋だったのです。
しかもその出窓は......

トマソンの「高所ドア」なんですよ。
屋上の上にある部屋の謎、謎が謎をよぶ大都会のど真ん中の直球ミステリ。
いったい誰が、何の目的で、こんなビルの屋上に部屋などつくったのか。そもそも屋上に部屋をつくったら、もうそこは奥ではありません。
矛盾に満ちた存在で我々を翻弄し、あざ笑うサスペンス。
本日、いよいよその謎に迫ったのでした。
......って何じゃ、この出だしは。
でも、まあ、そういう訳です。
とにかくこの屋上のさらに上にある部屋が気になって仕方ありません。
見た感じでは、単なる「オフィスフロア」というよりも、もっと大きな「講堂」のような雰囲気を湛えているような気がします。
しかも、この古びた感には「使い込まれた」というよりも「そのまま放置された」ような熟成した香りが漂っているのです。
東京の地下には、その昔、設置したまま放置されている地下鉄の駅が残っていると言います。
ならば地下のその逆、ビルの屋上にも放置されたままの施設があってもおかしくありません。
何しろ、この大手町ビルヂングが竣工したのは昭和33年といいますから、もう築50年!
そんな昔のビルヂングですから、使われなくなってそのまま忘れ去られた講堂が残っていてもおかしくないのです。
そう思うと、居ても立ってもいられなくなりました。
そこで、直接訊いてみることにしました。大手町ビルヂング所有者の三菱地所さん。
幸いにして、この大手町ビルヂング1階の入口すぐ横に、三菱地所さんの総合受付があるのですよ。
やったね!
もしこれが高層ビルの上の方だったりしたら、さすがに敷居が高くて気後れして行きたくても行けないところですが、ビル入口のすぐ横ですからね。
何気ない顔でビルに入って「あ、曲がるところ間違えちゃった!」みたいな顔をして受付に入っていけばいいのです。
そうです。何もビビる必要はありません。堂々と正面突破、三菱地所さんに「すみませーん」と突撃してきました。

「ハイ、何でしょう」
とってもステキな営業スマイルで応対してくれる受付のお姉さん。
しかしぼくはオシゴトで客先訪問したのではないのです。
説明に困ってしまいました。
「あの......、えーと。この間、このビルの屋上にある観音さまにお参りさせてもらったのですが」
「ありがとうございます」
「いえいえ。で、ですね。そのとき、その上にも窓があるのを見てしまいまして、それがちょっと気になってしまったものですから......」
「はあ」
「......えーと、あそこはいったい何なんでしょう」
「あそこはいったい何なんでしょう」と訊くぼくこそいったい何なんでしょう。
きっとお姉さんもそう思ったに違いないのですが、そこはそれ、ニッコリと微笑みながら
「担当の者に連絡しますので、お掛けになって少々お待ちください」
ロビーの一角の椅子を指し示すではないですか。
いや、あの、お客ではないのですが......。
商用でもないのにロビーの真ん中でふんぞり返って座って待つのも厚かましいので、適当にロビーのなかをウロウロ。
さらに用事のない「新丸ビルのオフィス入居用パンフレット(いい紙使っていて、かなり分厚い)」などを眺めて待っていたのでした。
受付ブースからは、「屋上の観音さまの......」「その上に部屋が......」「いえ、窓が......」「ええ、いらっしゃいます......」などと漏れ聞こえてきます。
きっと受付のお姉さんも説明に困っているのでしょう。
やがて「お客様、お待たせいたしました」と呼ばれました。
......すみません、しつこいようですが、全然客じゃないのです。
受付のお姉さんは「担当の者が出ておりますので、どうぞ」と内線電話の受話器を差し出します。
受付カウンターにわざわざ電話機を載せてくれたお姉さんに会釈しながらも、内線電話の受話器に向かって、再び訳の判らない説明をするぼく。
「観音さまの部屋のさらに上に出窓があったのですが、あれは何ですか?」
するとその担当者は「そんなもの、ありません」。
えっ?
「いやいや、屋上の上が出窓のようになっていて、ドアもついているのですよ」と説明すると、「それは明り取りの窓じゃないでしょうか」。
なるほど! 明り取りのための窓ね!
「ということは、やはり屋上の上には部屋があるのですね。どんな部屋なんでしょうか」
いいえ、部屋はございません。観音さまの部屋があるだけです」
「......?」
どうも話がかみ合っていないのです。
すると担当者の方はこんなことを言われました。
「しかし、そのときは幕を張ってあったので、窓があったとしても隠れていて私は気づきませんでした」。
幕......? 幕って、あの年末の福引会場のように賑やかなこれのこと?

オオウ、ノウゥゥゥ! 違ウノデェース!
どうやら完全に会話がかみ合っていなかったことに気がつきました。
どうやら、担当者は屋上そのものに窓があると思っているようなのです。うーん。
「そうではなくって、"その幕の上"にフロアらしき場所があって、そこに窓があるんです......」と力説すること約3分。
あー、もうこの写真を見せてやりたいぜ。
すると、「管理室の者に確認します」とそのまま内線電話は保留になりました。
ふう。
ところが......いつまで待ってもなかなか保留音は途切れません。
きっと変なヤツが来たとか思われてるんじゃないだろうなあ......。
このままずっと保留にしていたら、いい加減イヤになったら帰って行くんじゃないだろうか......なんて思われていたらどうしましょう。
てっきり、訊けばサクッと「ああ、あれは○○なんですよ」と答えてもらうつもりでいたのに、こんなエライことになってしまうとは......とほほ。
そんな不安と焦りと戦いながら待つこと約5分、ようやく「お待たせしました」と担当者が出てきました。
「管理室に確認したところ、空調室があるとのことでした」。
空調室......。
そうか、屋上に空調室......十分あり得ますよね。
なるほど......空調室かあ。
まあ別に空調室でも全然いいのですが、ぼくはすっかり廃墟状態の講堂しかイメージしていなかったので、ちょっとぽっかり胸に穴が空いたような、そんな寂しさを味わっているところです。
実はそれが先週の出来事だったのです。
そして今朝、会社に行く途中に大手町ビルヂングの屋上を見上げてみると......おおお!
確かに出窓のある「講堂」のような建物から、空調の水蒸気がモクモクと勢いよく吐き出されているうのでした。

これで確定的ですね。
あの屋上のさらに上にある出窓の向こうに隠されていたものは、空調設備だったのでした。
そうか空調室かぁ......。