ひょっとこ乱舞「銀髪」(吉祥寺行その2)

夜は、TRICK+TRAPのある商店街から駅前を戻り、さらに過ぎ行き、怪しげなネオンが点る一角のさらに向こうにある吉祥寺シアターまでやってきました。
今回が初めての鑑賞となる、ひょっとこ乱舞の新作『銀髪』を観るためです。
ひょっとこ乱舞『銀髪』

このひょっとこ乱舞、そのインパクトのある劇団名から名前だけは知っていたのですが、逆にインパクトがありすぎて、なかなか「行ってみよう!」という気になれなかったのですね。
だって、「ひょっとこ乱舞」ですよ、「ひょっとこ乱舞」。
ひょっとこの面をつけ、手ぬぐいを巻き、ハッピ姿の男衆が、舞台いっぱいに数十人出てきて、ただ「エライヤッチャ、エライヤッチャ」と踊っているだけのような、そんな恐ろしいイメージがあったのです。

ところがこのひょっとこ乱舞、去年の暮れからぼくも参加しているポタライブのワークショップで、ずっとご一緒だった方が所属している劇団だったのです。
ワークショップを通じてもうすっかりその方のファンとなってしまったぼくとしては、ぜひぜひ観に行かせて頂きます!などと勝手なことをほざき散らし、有言実行、ノコノコと吉祥寺にやって来たのでした。

ストーリーは、やはり「ひょっとこ面をつけた男衆が、延々踊り続けている」......訳がありません。すみません。
何と言うか、もう現代社会における壮大な一大叙事詩的なものなんですね。
潰れたラーメン屋のバイトたちが集まり、「こんなことしてみようぜ」と始めた仕事が一気に軌道にのり、やがては世界をも巻き込む巨大ビジネスになるという物語。
しかしそういった社会の頂点に立ったあたりから、徐々に歯車が狂い始めて崩壊に向かっていく......という、まあありがちといえばありがちなストーリーなのです。
が、しかし、演じる役者のテンションが半端じゃないのです。
高いのです、高い。それも異様に高い。
冒頭からトップギアに叩き込んだまま、ラストまで一気にそのハイテンションを保ったままなんです。

物語の構成も、こうした壮大なストーリーだとどうしても途中で破綻してしたり、中途半端なままで終わってしまったりということがあるのですが、いえいえ。
これまた作者のテンションも、常にトップギア、レッドゾーン突入のMAX全開のままでラストまで駆け抜けたのでしょう。
最初から最後まで物語も破綻することなく、それどころか、様々なサイドストーリーすら盛り込んで、それをメインの物語内でちゃんと回収していってるのですよ。
恐るべき作家です。
またその作家のテンションにちゃんと応える役者たちもおそるべし。

これだけ壮大なストーリーとしたためか、上演時間が3時間近くあります。
また、近頃の舞台にしては珍しく休憩時間も挟みます。
これは役者のテンションを持続させるためなのかもしれませんが、ひょっとしたらその役者のテンションが伝染した観客のためなのかもしれません。
それだけ"濃い"内容の3時間なのでした。
それでいて入場料は2500円ですから、安っ!
さらにアンケートを会場で提出すると100円がキャッシュバックされるということで、実質2400円なのです。さらに安っ!
驚異的なコストパフォーマンスと言ってもいいでしょう。
もう見終わったら、充実したストーリーに、おトク感に、その他もうありとあらゆる何だか判らないものでお腹が一杯になってしまうのでした。

ただ、上演時間が3時間近く掛かっても、メインストーリーの展開には急ぎ過ぎな点があったところが否めません。
いかんせん、サイドストーリーを盛り込み過ぎたからなのか、佳境に入ってからの展開が唐突なように思えるのですね。
冒頭では少々狂い気味だった人物が、ビジネスが巨大化していくに連れてまともになっていき、逆に当初はまともだった人物がビジネスの巨大化とともに徐々に狂いだしていくのですね。
しかしその狂いっぷりがかなり突然だったため、どうもそこからの感情移入がちょっと難しくなるのでした。
いくつかのサイドストーリーを削ってでも、もっとじっくり彼が狂いだしていく様を描いていくと、彼の苦悩が浮き彫りになったと思うのです。

他に驚いたのは、ステージ上にはセットが一切存在していなかったこと。
天井から、白いゴム手袋を風船のように膨らませて括りつけたオブジェのようにも見えるものがいくつか吊り下げられいただけ。
ステージ上には、見事なくらい、なーんにもないのです。
しかし舞台が始まると、セットがなかった理由に「なるほどね」と納得できます。
とにかく役者がステージいっぱい使って、走る、動く、踊る。
その動きのひとつひつがまた、テンションの高さに結びついているのでしょう。
これだけのテンションで演じるのでしたら、ステージ上にセットなど必要ありません。
十分に面白く見入ってしまいました。

ただし、その動きが平面上だけに限られていたのが残念と言えば残念なんです。
吉祥寺シアターと言えば、舞台上の巨大な吹き抜け状になっている高い天井があるではないですか。
できれば縦方向、空間を使っても今回のテンションの高さを表現できれば、3Dサウンドならぬ、3Dハイテンションとして、より観客にリアルな臨場感を味わらせることができたのではないかと思うのです。

終了すると、カーテンコールもなくあっけなく客電がついてしまい、「あれ?」。
とりあえず100円目当ててでアンケートを書きこみ(ウソです、いつもちゃんと書いています)、ロビーに下りてきたところで......うっわぁ。
なんと劇団員がロビーに出てきていて、談笑の輪が広がっています。
なんてハートフルウォーミングフレンドリーな光景なんだ。
ロビーからはみ出て、外でも劇団員と談笑の輪は広がっていました
今回、来るきっかけとなった件の役者さんにご挨拶していると、ポタライブで知り合いになった方々ともお会いしたりしたのでした。
そうかー。こうして、いつもロビーでは談笑の輪が広がっているのね。
ただし、あまりの人の多さに恐れをなしてしまったぼくは、ご挨拶をするだけすると、スタコラサッサと逃げ帰ってしまいました。
何と言う小心者なぼくという人間......。