燐光群「チェックポイント黒点島」(スズナリ)を観に行く

夜は、下北沢はスズナリへ燐光群の新作「チェックポイント黒点島」を観に行ってきました。
相変わらず、このうらぶれ感がなんとも言えず素敵なスズナリ

「燐光群」といえば、社会的な話題を鋭く切り込みながらも、エピソードを多層的に積み上げていき、しかもかなり“余白”を残してストレートに描かず、何をその芝居にこめているのかのメッセージ性の解釈は観客に預けるため、どこか「難解だ」という印象ばかりあるのです。
今回も、ベルリンの壁に残されていた検問所「チェックポイント・チャーリー」に触発され、現在の日本が抱えている竹島、尖閣諸島、対馬、北方領土に踏み込む、というかなり社会派なネタを扱っているとのことで、難解なことが予想されたのでした。
が、客演に竹下景子ですよ、竹下景子。
かつてクイズダービーでは「三択の女王」、そして今では「パブロン(風邪薬)のお母さん」。
その竹下景子が、スズナリのような小劇場に出ているとあれば気にならない訳がありません。
(かなり不純な動機)
いや、もちろん、それだけではなくストーリーそのものにおいても、「演劇的手法を駆使する、大胆な構造になっている」とのことなんですよ。
燐光群といえば、ロシアの劇場立てこもり事件を描くにあたっては、紀伊國屋シアターの客席半分をつぶして舞台にしていたし、そういった意味でも大胆な演出が気になるところだったのです。

そんな訳で、久しぶりに燐光群を見に来たのですが……どわ。
初日だというのに、すでに客席は満席で熱気ムンムンなんです。
トイレに行って、自分の席に帰ろうとすると……通路がない!というくらいに人を押し込んでいます。
物語の内容は……これはすごい!
現実世界に突如現れた検問所(のような小屋)を見かけた主婦が、その小屋の形が、連載が中断されているマンガと似ていることに気がつくところから物語は始まります。
偶然にも、その主婦はマンガ家と同じ名前であり、さらにそのマンガの主人公も作家やその主婦と同じ名前であるところから、「主婦のいる現実世界」「作者であるマンガ家の世界」「そしてマンガのストーリーそのもの」のエピソードが、「チェックポイント(検問所)」をキーワードとして重層的に積み上げられていきます。
舞台セットはシンプルにこの小屋がひとつだけ。
このセットが時には検問所であったり、検問所に似せて作った小屋であったり、観測所であったりと、その描かれている世界にあわせて姿を様々に変えながらも、物語はベルリンの壁、尖閣諸島や竹島問題、北方領土も絡んでくるのです。
そして、現実であるはずの世界に、なぜ突然に検問所が出現したのか明らかになるシーンには……ゾワワワワとサブイボが立ってしまいました。
とってもネタバレになるので残念ながら書けませんが、誰もが覚えている有名な事件をもエピソードにし、その事件を絡めることで現実世界であるはずの主婦の世界にも検問所が出現したのでした。
そしてラストでは、「ええ、そんなのアリ?」と思わされるオキテ破りのトンデモさ。
ここまでいってしまうと、もうSFファンタジーですね。
しかしこのラストを用意したからこそ、これまで“検問所”を意味するだけでしかなかったチェックポイントが、新たに“希望的な意味”としてクローズアップされる仕掛けになっているのです。
そういう意味からしても、やはりこれは立派なファンタジーのジャンルに入るのではないでしょうか。
社会派であることには変わりないのですが、描き方としては、観客に解釈を委ねるのとはまた異なった今回の作品だったと思うのです。

ただし残念だったのは、これだけ重厚な社会派ネタを扱っているのに、くだらない笑いが客席の随所で起こっていたこと。
たしかに、シニカルな発言やちょっとズレたセリフも多くありましたが、そんな声を出して笑うほどだったのでしょうか……。
どうも“口を開けて待っている”客が多かったようで、ちょっとでもズレたセリフがあると、皆、我先にと声を出して笑うものだから、耳障りでならないのでした。
今日の観客で笑っていたヒト、本当におかしくて笑っていたのでしょうか。
作者に悪いから、と調子を合わせて笑っているのなら、かえって作者にためにならないから、そんなくだらないことはやめておいた方がよいと思うのですが……。

……などということを、つらつらアンケートを書いていると、「場内整備に入りますので」と客席からロビーに追い出されてしまいました。
ロビーで黙々とアンケートの続きを書いていると……ん?
いつの間にか、周りが華やかなオーラに包まれているんです。
何だ、何だ……と顔を上げてみると、どわー!

すぐ目の前に竹下景子がいるのですよ!

三択の女王です!
パブロンのお母さんです!
もう訳判りません!
どうやら、今日が初日ということで、関係者や知人もたくさん来ていたらしく、それでわざわざ竹下景子がロビーまで出てきて、挨拶と歓談をしていたのでした。
最後の最後で、ナマ竹下景子を見られたことで、ものすごく得した気分になった今日の燐光群なのでした。
燐光群「チェックポイント黒点島」