販促POPに見る昭和事件大全集

いつものようにいつものごとく、紀伊國屋書店の新宿南店をプラプラしていたときのことです。
文庫本のフロアを覗いて回っていると......あまり聞きなれない、見慣れない、「新風舎文庫」のコーナーなんてできあがっているのですよ。
天井近くまで飾り立てた新風舎文庫のコーナー

このコーナー、本棚にズラリと本を並べただけでは物足りなかったのか、「ついでだったらここまでやっちゃえ」とばかりに、本棚の上に掲示板のようなスペースまで設けてしまっているからもう大変。
空間まで完全にジャックされてしまった状態なのです。
そうか、本屋さんでは本棚だけではなく、その本棚の空中にまで展示できる権利はあるのですね。
まるで複雑に利権が絡みついた不動産社会を垣間見るような思いです。
紀伊國屋書店のような巨大本屋さんともなると、本棚の位置を巡って出版社の営業マン同士が激しくぶつかり合って、ちょっとしたバブル状態なのかもしれません。
そこに怪しげなコンサルタントやら、地上げ屋や整理屋まで出て来ると......大変です。

しかも、この空中権を制した「新風舎文庫」の板には、びっしりと販促POPが張り出されてあるのでした。
天井近くまでびっしりと張り出されてある販促POP

さすがは書店バブルのこの時代、なかなか気合が入った売り場が出てきたものです。
しかし......あれ?
どうも「数にモノを言わせようとした」のが裏目に出たのか、なのです。はっきり言って、オカシイ

例えば、これ。
下山事件をまじめに語ってみる
これなんて、「下山事件」のあらすじを紹介し、"一体どんな事件なんだろう?"とお客さんの興味がそそられるような内容になっています。
全然オッケーなのです。

こんなのもあります。
「三鷹事件」のことを語っているようで......実は何も語っていない謎のPOP
「三鷹事件」を語るには、なんと992ページも必要でした......って、何だかスゴイことのように書かれてありますが、よくよく読んでも、どこにも「三鷹事件とは何か」と言う説明が一切ないことに気が付かされるのです。
さらにPOP本文を見てみると、「三鷹事件」がなぜか「三タカ事件」なんて書かれてあり、まるでガダルカナル・タカのようなネーミング表記になっていることも謎なんです。

POPは段々とこのあたりからおかしくなってくるのです。
何だか、「まるっきり訳の判ってない人がPOPを書いたらこうなっちゃいました」という見本のようです
「白鳥事件」のこのクエスチョンマークの多さは何なんでしょう。
おそらくPOPの作者は、"「白鳥事件」が持つ謎の多さ"をクエスチョンマークに託したかったのだと思うのです。
しかし、これではまるで「白鳥事件?????......知らねぇなぁ」みたいに、POPを書いた人がまったく本の内容を理解せず、無理やり書かされた感が漂ってくるのです。

続いては「袴田事件」のPOP。
コピーにどこか岡田あーみんの影響が感じさせられる「袴田事件」のPOP
一見、事件のことをまともに書いているようですが、よくよく読んでみると......、やっぱりおかしいのです。
「どうするよ...」「どーしてくれんだよ...」って......。
この投げやりなセリフは、まるで岡田あーみんじゃないですか。
ああ、『お父さんは心配性』に出てくるパピーが......狂気に苛まれたグルグル目で「どうするよ...」「どーしてくれんだよ...」って迫ってきている様子が目に浮かぶのです。
このPOPを書いた人も、やはり岡田あーみんチルドレンのひとりなのでしょうか。

そして多くの皆さんがご存知の「阿部定事件」。
あまりに有名な「愛のコリーダ」、阿部定事件。
......もう言うことありません。
「痛いだろー!」「子供ができなくなっちゃうだろー!!」って......。
あのー、生きてる最中にそんなことしてませんって......。
というか、できませんって。
しかしどうしても、藤岡琢也......あーいやいや、藤竜也の顔が浮かんできてしまうのは、「愛のコリーダ」の大島渚マジックのせいでしょう。

「ひかりごけ事件」のPOPも変なのです。
「ゆきゆきて神軍」も忘れてはなりません......って、ますます関係ない話をしています
「人間を食べたら 罪です」と書かれたあたりはありきたりなキャッチコピーなのですが、その下に「へー、そうなんだー、知らなかったー」って......。
メチャクチャ人間を食う気満々なんですよ、この方は!

しかし、数ある変なPOPのなかでも、やはりピカイチだったのが、これ。
「深川通り魔殺人事件」と言うよりも、川俣軍司の方がピンと来るかも
これまでのPOPのように、事件名より「川俣軍司」の名前が真っ先に挙げられているのが異色なんです。
やはりこの事件をリアルタイムで接した世代では、「深川通り魔殺人事件」と言うより、川俣軍司の名前の方がピンと来るのかもしれません。
しかしこのPOPの凄さはそこではないのです。
「80年代初頭日本の混迷」という、判ったようで実はやっぱりよく判らない迷キャッチコピーはまだいいとして、「パンツ一丁で逮捕」って......。
事件そのものと関係ないやん。
これではまるで、川俣軍司がパンツ一丁で通り魔をしていたような、そんな変態チックな印象をクッキリ残すキャッチィなPOPなのです。
こんなにお間抜けなコピーが笑いを誘うのに、その周囲には包丁の絵がキッチリ4本(川俣軍司が刺殺したのは4人)、しかもリアルに血が滴っている様子まで描いているのが実にアンバランスな怖さを引き立てています。
「笑いのあとに恐ろしさがやってくる」という、まるで『未来世紀ブラジル』のような奥の深いPOPなのでした。

しかし「新風舎文庫」のコーナー、空中権まで買い取って、ここまで数多くのPOPも書いたりして、メチャクチャ販促に社運を掛けているのはヒシヒシと伝わるのですが......

POPから離れた場所に並べられているので、どの本のことなのかよく判りません
どのPOPが、どの本のことなのか、まったく判りません。

コメント

いや~、笑えました。
さすが新風舎、その名の通り新しい風を吹かせてますね。
社風も知れますね(辛口)

いやいや、実はまともなPOPもたくさんあったのですが、敢えてこんなPOPばかり選んでみました。
しかし考えてみたらこのPOP、ひょっとしたらお店の人が書いたのかもしれませんね。
だったらごめんなさいです、新風舎さま。
しかもタイトルに「昭和事件大全集」とか書いちゃいましたけど、本そのものはオウムとかサリン事件とか、平成の事件もたくさんあるようで、なおさらごめんなさいです。
(何だか村上龍の『昭和歌謡大全集』のオマージュと取っていただければ幸いです)←何なんだ、オマージュって……。