これまで、渋谷の街で本屋さんの観測と言えばブックファーストのみだったのですが、パルコの地下にリブロがあると言うことで新規開拓してみました。
すると……おお!
レジ前でものすごいフェアをやっているのを見つけてしまったのですよ。
題して「LIBROの100冊」。
リブロの店員が「これは面白い」「これは読んでおくべき」と思った本を100冊セレクトし、なんとそれらの本全てに特製の帯を掛けているのですよ。
……が、どうもこの帯がおかしい。この「おかしい」というのは「可笑しい」でもあり「奇怪しい」でもある、オカシイなんです。
確かにまじめに本の内容に触れていたり、お勧めポイントが記しているものも多いのですが、例えばこれ。
キモい
江戸川乱歩『人間椅子』のお勧めポイントがたったひとこと“キモイ”って……本気で勧めてる?
そもそも何が“キモイ”のか。
表紙の絵がキモいのか。
「人間椅子」という作品がキモいのか。
それとも「他9編」のどれかがキモいのか。
江戸川乱歩と言う名前がキモいのか。
これじゃ、よく判りませんって。
表紙にドデカく一言書くパターンは他にも色々ありましたが、これは秀作。
表紙見ちゃダメ。
ぬおぉぉぉ!
確かにこの本、表紙でものすごいネタバレをやらかしてくれています。
そのネタバレたるや、●●●が実は●●●だったとか、×××と思わせておいて実は×××だったとか、△△△の△△△が実は△△△だったとか、そんな感じでこの表題作のいちばんの驚きどころを堂々と表紙に描いちゃっているのですよ。
いけません、いけません。
そんな訳でこの本だけ異常に帯の幅がデカイのですが、これは大正解なのであります。
ちなみにくしくも季節は8月、もうすぐ終戦記念日であり、また今現在のニッポンでは靖国神社の問題で揺れているだけに、今こそ表紙を見ず先入観なしで「くだんのはは」を読むといいでしょう。
でもネタバレになってもいい、どうしても表紙が気になる……という勇気のあるあなた、コッソリこちらでamazonのページにリンクを貼っておきます。
小松左京『くだんのはは』(角川春樹事務所)
さて、もちろん紹介されている本はこんな「一言系」ばかりではありません。
例えばこんな紹介文章がありました。
デビュー作にしてサントリーミステリー大賞の優秀作品賞を受賞。
だけども、あまりミステリーっぽくないんです。
いや、前半はいいんです。「デビュー作にしてサントリーミステリー大賞の優秀作品賞か、なるほど」と思わせる。
しかしそのあとになぜか「だけども、あまりミステリーっぽくないんです。」
……これ、ホントにお勧めしてるのでしょうか。
「サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞した作品だけど、あまりミステリーっぽくはないぞ。気をつけろっ!」と言いたかったのかもしれません。
だったら「お勧め」というよりも、「注意」と言った方がいいかもしれないのです……。
いや、「お勧め」というよりも「注意」を喚起しているのは、むしろこっちの本の方かもしれません。
何たるおバカ!!
確かにこの本ではこれ以上の言葉でお勧め(あるいは注意)することができません……。
リブロ店員による傍若無人なお勧めはまだまだ続きます。
その矛先は、なんと、大江健三郎先生にまで向けられているのですよ。
大江健三郎ってもしかしてただのヘンタイ?
なんとリブロ店員の手に掛かれば、ノーベル賞作家もただのヘンタイに堕とされてしまうのですね!
しかも○危印付きでもはや江頭2:50並みの危険度を思わせるデインジャラスさ。
もはや怖いものなしのリブロの店員、恐るべし!ですね。
そしてまだまだリブロ店員の暴走は続くのですよ。
向田邦子の『父の詫び状』には、あろうことか
いちばん難しいのでパスします
出たー! 出たー! 出ましたよー! まさかの用語、「パス」。
サッカーじゃないんだから。
というか「いちばん難しい」って、自分で勧めておいて、その放り投げっていったい……。
うーん、ひょっとするとこの“帯でのお勧め”はノルマ制だったのかもしれません。
店の在庫が多そうな文庫本を、適当に100冊分引っ張り出してきて、エライ人(店長とか?)が「各自10冊ずつ、1週間以内にキャッチコピーを考えてくるように」と出された宿題だったとか……。
この向田邦子を担当した店員は、こうして無理やりノルマとして本を読まされ、キャッチコピーまで考えさせられたことに対するひそやかな反抗を、「いちばん難しいのでパスします」の一文に変えて出したのかもしれませんね。
ああ、すまじきものは宮仕えなのです……。
しかし、やる気のある店員はやる気満々なんですよ。
例えば森奈津子『西城秀樹のおかげです』の帯は
なんですが、実はこの帯の背にも秘密は隠されていたのでした。
あっ… ああ~ん(はぁと)(はぁと)
密かに帯の背には大胆に喘ぎ声(しかもはぁとマーク入り)が隠されているのでした。
確かにこの大胆な秘密の喘ぎ声、平台に積み上げているとその効果は絶大なのですが、棚に収められてしまうと丸見えになってしまうのですね。
それはそれで「……ハァハァ、な、なんだこのイヤラシイ喘ぎ声は……?」とエロい輩が手に取るかもしれませんので、その効果は平台に置いたときよりも絶大なのかもしれません。
そして最後に東野圭吾の『秘密』。
この帯では「まだ読んでない人がうらやましいっ!!」と、初期目的の“勧める”という行為を達しながらも、さりげなくイラスト部分で「とはいえ、ワタシは7回くらい読んでますが…」と、2ちゃんねるであればそのあとに「何か?」と付けられそうなぐらい実にイヤミな店員の自慢も入っています。
いや、まあそこはいいのです。
素直に考えれば、「ああ、7回でも読み返したくなるぐらいにいい作品なんだろうなあ」と気にさせる効果を狙ったのかもしれません。
しかしこの帯の背中にも秘密のメッセージがあったのでした。
何度も読み返したくなる
…ミステリーのくせに。
“くせに”ですよ、“くせに”。
ミステリーのくせに。
ミステリーを読み返したくなるのがまるでおかしいかのごとく、この発言。
まるで、ジャイアンが「のび太のくせに生意気だぞ」と訳の判らない言いがかりを付けて暴力をふるうぐらいの理不尽さなんです。
ひょっとしたら、渡辺淳一先生もきっと文壇界のジャイアンだったのかもしれませんね。
何だ、直木賞をとろうというのか。ミステリーのくせに。
うーん、そう考えるとジャイアン名言集を渡辺淳一先生に言ってもらうのもいいかもしれません。
- ♪オ~レはジュンイチ、文豪だァ~
- 直木賞はオレのもの、オレの直木賞もオレのもの
- この程度で直木賞をとろうなんて、ギッタギタにしてやる
- ミステリで直木賞なんてとったヤツは、オレがころしてやるから
- いてててて、母ちゃん許してくれよ~
……ということで、なぜか「LIBROの100冊」イベント紹介の結論は、「渡辺淳一先生=文壇界のジャイアン」ということになってしまったのでした。
次回は“文壇界のスネ夫”を探してみたいと思います。
コメント
さすが渋谷ですね。作家をなめきったコピーが帰って新鮮なのでしょうか。池袋のリブロでもあるのかな。会社の帰りに見に行ってみよう(うむうむ)。
絶対完読してないだろコラ! っていう帯多いですね。しかも「やる気まんまん」のキャラ(オッ*セイ)みたいなへんな生き物が大変気になります。
Posted by 献丈らかん at 2006年8月 9日 23:40
調べてみると、これは渋谷だけのイベントのようでした。
しかも帯に描かれている謎のキャラクタは「ハグトン」というらしく、ブックカバーや栞ももらえるそうです。
集英社文庫の「はちクロ」や新潮文庫の「Yonda?君」より貴重度は高そうなグッズですが、欲しいかどうかと訊かれるとどうでしょうか……。
Posted by なかはし at 2006年8月 9日 23:54