ホントにテレビデビューし損なった日

いやー、すっかり秋の空気の匂いがする気持ちのいい朝。
月曜日だと言うのに、きっとやたらと清々しい顔で会社に向かっていたのでしょう。
東京駅の前で信号待ちしていると、突然に「あの、ちょっとすみません」と声を掛けられたのです。
ん?とそちらを振り返ってみると

来たァァァァッ!

マイクを持った男性が「フジテレビですが、お話をお伺いしてもよろしいですか」。
よろしいも何も、ええ、ええ、ドンドンと何でも聞いてください。

ん~、思えばどれほどの回数、「サラリーマンインタビュー」を受けているオッサンを羨望の眼差しで眺めながら通り過ぎていったことか。
“東京”と言う名のコンクリートジャングルに単身乗り込んで早4年、今日、遂にぼくは「サラリーマンインタビュー」デビューを果たす日が来たのですよ、お父さん、お母さん!
ビデオの予約スイッチを入れるのを忘れないでね。
もちろん3倍速は厳禁、標準モードになっているか確かめて。
などと走馬灯のように思いを巡らせながら、街頭インタビューが始まりました。
おお、目の前にはテレビカメラが。
向けられるマイク。
傍を通り過ぎていく人から向けられる羨望のまなざし。
ああ、これが「インタビューされる人」に与えられる特権なんですね!
特権階級への仲間入りを果たしたのですね!
すると、そのマイクを持ったインタビュアー氏、

「オリンピックはご覧になられましたか」。

え? え? え? オリンピック……?
そういえば今、そんなことやってたっけ。
や、やばい……全然ノーチェックだったよ。
というか、「ケッケッケッ、どこの局もアホの一つ覚えみたいにオリンピックばっかりやりやがって。ウッゼェェェー」なんて、思いっきりバカにしていましたよ。
ウン、仕方ありません。
ここで変にウソをついてボロを出しても恥ずかしいので、キッパリ答えました。

「いえ、全然 観ていません」。

てっきりその時点でインタビュー氏は「そうですか、どうもありがとうございました」と去っていくのかと思いきや……「では、これまでに何か心に残った試合とかはありますか?」。
って、おい! やっぱりオリンピックの話が聞きたいのか。
うーん、困ったぞ。
生まれてこの方、オリンピックなどというイベントには興味を持ったことないのですよ。
だからと言って「知らぬ存ぜぬ」では、せっかくのチャンスがもったいない。
やっぱりこんなときは、

いやあ、アベベですよ、アベベ。
あとは円谷幸吉のあの悲壮なまでのプレッシャーかな?
いやいや、やっぱり忘れてならないのは人見絹枝ですね。

などと答えておけばよかったのでしょうか……。
イヤ、ひょっとしたら「馬術と射撃が楽しみです。そうそう、トランポリンも要チェックですよ」などと、あまりテレビ中継されないものを答えておけば、珍しい意見ということで採用されていたのかもしれません。
(いや、そういった競技だと選手のことは全然知らないけど、まあインタビュアー氏も知らないでしょう、きっと)

……なんて考えたのですが、スンマセン、結局は「なーんにも観てないのですよ、イヤ、ホント」なんて、何の面白みもないフツーの答えしか返すことしかできませんでした。
そんな自分が悔しいったらありゃしない。
ああ、このリベンジの機会はもう二度と来ないのかなあ……ブツブツ。